■「霞柱」 vs 「上弦の伍」の悪口合戦

 玉壺に対する無一郎の「毒舌」には2つのパターンがある。1つめのパターンは、敵である玉壺が言った言葉を「とにかく否定しておちょくる」という方法だ。

玉壺「…… 舐めるなよ小僧」

無一郎「いや 別に 舐めてるわけじゃないよ」

玉壺「お前のような手足の短いちんちくりんの刃 私の頚(くび)には届かない」

無一郎「いや さっき思いきり届いてたでしょ そもそも君の方が手足短いし」

(玉壺・無一郎/14巻・第119話「よみがえる」、第120話「悪口合戦」)

 もう1つは、この「否定」とよく似たパターンだが、「とにかく同意しておちょくる」バージョン。「真の姿を見せてやる」と玉壺がもったいつけると、無一郎は「はいはい」と軽くあしらい、玉壺が「口を閉じてろ」と怒る場面があった。

 この子どもじみた、不毛な否定・肯定のし合いは、便所虫、糞餓鬼、気色悪い、貧乏人、ちんちくりん、といった、彼らのユーモラスな語彙センスによって、「鬼殺隊の柱」と「上弦の鬼」の戦闘中の会話とは思えないほどバカバカしい。見ている誰もが笑いをこらえられない場面だ。

■無一郎の「悪口」の真骨頂

 そんな中、なんとか自分のペースを取り戻そうと、玉壺は「この程度で 玉壺様が 取り乱すとでも?」と、無一郎をいなそうとした。戦闘において冷静さを保つことは何よりも肝要だ。

 しかし、無一郎は戦略的に、さらに「子どもっぽい悪口」を重ね、玉壺が逆上しそうな言葉を会話の中に巧みに散りばめていく。玉壺が誇りに思っているのは、「人間よりも長命であること」「自分が美しく品があること」「自分の壺が素晴らしいこと」「美的感覚が優れている」ということだった。無一郎は、それをこんな言葉で挑発した。

「随分感覚が鈍いみたいだね 何百年も生きてるからだよ」

「見た目も 喋り方も とにかく気色が悪いし」

「お前のくだらない壺遊びにいつまでも付き合ってられないし」

(時透無一郎/14巻・第120話「悪口合戦」)

 とどめの一言はこれだった。

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無一郎の「きつい言葉」は相手によって違う