自動翻訳技術の第一人者・隅田英一郎さん 写真/高橋奈緒(写真映像部)
自動翻訳技術の第一人者・隅田英一郎さん 写真/高橋奈緒(写真映像部)

 AI(人工知能)は現在、英語でのコミュニケーションにどれだけの影響を与えているのだろうか。『AERA English2023』(朝日新聞出版)では、『AI翻訳革命―あなたの仕事に英語学習はもういらない―』の著者であり、自動翻訳技術の第一人者の隅田英一郎さんに話を聞いた。

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 国際コミュニケーション英語能力テストのTOEICは990点が満点だ。一方、2022年6月に発表された日本のトータル平均スコアは574点にとどまる。正答率は6割に満たず、善戦しているとは言い難い。また、日本の中学や高校の英語教員でも平均スコアは600点前後だと言われている。

「最近のAIはTOEICで900点レベルの英語力を持っていますよ」

 そう話すのは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の隅田英一郎さんだ。自動翻訳技術の第一人者で、NICTによる自動翻訳サイト「みんなの自動翻訳@TexTra(R)」や音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」の開発に携わってきた。

 AIが達しているTOEICの900点レベルは相当な実力と言っていい。TOEICを運営するIIBC(国際ビジネスコミュニケーション協会)は、860点以上を「Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる」と評価。「自己の経験の範囲内では、専門外の分野の話題に対しても十分な理解とふさわしい表現ができる。Native Speaker の域には一歩隔たりがあるとはいえ、語彙・文法・構文のいずれをも正確に把握し、流暢に駆使する力を持っている」と定義している。

 20年時点でAIのTOEICスコアは日本の平均以下の550点だったという。なぜAIの機械翻訳(MT: Machine Translation)は、わずか数年で「語彙・文法・構文のいずれをも正確に把握し、流暢に駆使する力」を発揮できるほど進化したのだろうか。隅田さんが説明する。

「近年主流の『ニューラル機械翻訳』は人間の脳の学習処理を模したもの。簡単に言うと、過去の翻訳例を何億文と蓄積したデータから学習したモデルに従って適切な訳文を生成します。普通の人間より勉強した量が圧倒的に多く、しかも絶対に忘れないという特長があります」

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2025年には同時通訳が 本格実用化の予定