隅田さんによれば、AIと翻訳との相性が特に良いのは専門分野だという。特許業界や製薬業界などは専門用語が多いが、AIは人間以上に専門用語を覚え、迅速かつほとんど正確に訳す。AIの力を借りることで、翻訳の作業時間の短縮化も図れる。

「英語力が高い人が多い大手商社でも機械翻訳が積極活用されています。機械翻訳でまず粗訳をする翻訳家の方も増えているようですが、それは英語を逐一自分で訳しながら理解するよりも機械に翻訳してもらったほうが圧倒的に時間がかからないからです。TOEICで900点レベルの英語力を借りないわけにはいかないということでしょう」

 ただし、現状のAIは短い範囲での翻訳を得意とする一方、長い文脈に合わせ最適化して訳す力にはやや欠けている。たとえば小説の翻訳は、まだ人間の翻訳者や翻訳家が数段上手だというのが隅田さんの見解だ。

 隅田さんは機械翻訳を電動アシスト自転車に例える。電動アシスト自転車が人間の脚力を補助するように、機械翻訳は人間の翻訳能力を拡張するものだと考えている。隅田さんは話す。

「現状の機械翻訳の精度は約9割とされています。1割ほどの間違いを許容するかどうかは人それぞれですが、間違いを減らしたり、見つけたりすることはできます」

 たとえば日本語を英語に機械翻訳する場合、「Clear(明瞭さ)」「Correct(正確さ)」「Concise(簡潔さ)」という「3C」を意識する。日本語で省略されがちな主語をきちんと入れ、「どのような」や「どのように」に触れて正確さを出し、情報が多くならないように一文を短くするだけで、誤訳の可能性を減らせると隅田さんは説明する。また、複数の機械翻訳ツールを使うことで、1割の間違いに気づく可能性が高まるという。「Grammarly(グラマリー)」のようなAIを使った文法添削ツールも注目を集めている。

 最近では「TerraTalk(テラトーク)」のような英語スピーキングアプリを学びに導入する教育機関も増えてきた。1人1台のスマートフォンやタブレットを使ってAIと音声でやりとりができるもので、一斉授業より1人あたりの発話量が増える。同時に、教師の負担が減る利点もある。隅田さんは指摘する。

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日本経済を活性化する起爆剤になるかもしれない