吉村知事は自民党の選挙手法について、

「そんな古い政治は終わり、維新で新しい政治を和歌山に」

 と言い、馬場代表は選挙戦中、

「アリが象を相手に戦っている」

 と繰り返した。林氏の当選が決まったあとの勝利会見では

「アリが一致団結すれば象も倒せる」

 と胸を張った。

 維新の勢いをみて、自民党内部からも反省の声が漏れる。

「この補選でもう一つ、世襲、後継指名という問題が突きつけられた」

 と話すのは安倍派の国会議員だ。

 衆院山口2区は、岸信夫元防衛相の息子、叔父が安倍晋三元首相という岸信千世氏(31)が無所属で元法相の平岡秀夫氏(69)を破った。山口4区は安倍元首相の後継指名を受けた吉田真次氏(38)が、立憲民主党の有田芳生氏(71)を下した。だが、それでも結果に満足できないとこの議員は言う。

「山口2区、4区とも岸元防衛相、安倍元首相は、10万票ぐらいとって圧勝して当然の選挙をやってきた。それが、今回、吉田氏は5万票、岸氏は6万票しかとれなかった。維新に票が流れているのは、自民党の世襲や後継指名に大きな批判、不満があるからではないか。選挙前、岸氏がホームページに『家系図』を掲載して、安倍元首相ら大物政治家の一族をアピールして大失敗した。投票率が下がっているのは、昔ながらの政治に嫌気がさしているからだろう。その問題を払拭していかないと次の総選挙では維新にやられてしまう」(前出・安倍派の国会議員)

 自民党元職員で政務調査会を長く担当した田村重信氏はこう分析する。

「今回の補選は投票率が低かったため、組織票に強い自民党が救われ4勝できた。でも2年前の衆院選では、石原伸晃氏ら2世の大物議員が小選挙区で落選した。選挙結果からみて、世襲候補が問題ということがよくわかる。『親ガチャ』で選挙は安泰、楽勝という批判だ。維新がうまくその受け皿になっている。選挙が楽だからと安易に世襲や後継指名で候補者を決めてはいけない。親ガチャへの警鐘だと岸田首相は認識すべきです」

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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