「学暴MeToo」をめぐって、2021年だけで約40人の芸能人と10人以上のスポーツ選手の過去が暴露された。その流れは2023年現在も続いており、政治の世界にも飛び火しはじめた。

 今年2月末、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が国家捜査本部長という要職に検事出身の鄭淳信(チョン・スンシン)弁護士を任命するという情報が流れた。これに対して、2017年に鄭氏の息子が高校時代の同級生をいじめたという「学暴MeToo」ニュースが広がったのだ。鄭氏の息子は同級生に「豚野郎」「汚いから消えて」などの激しい暴言を常習的に放っていたという。

 野党は鄭氏の国家捜査本部長任命に対して強く反発。尹大統領はただちに彼の任命を取り消したが、野党は真相究明をするという理由で与党と大統領の追及を続けている。

「学暴MeToo」の風潮に警鐘を鳴らす人もいる。韓国の学暴問題は日本同様に深刻で、被害を食い止めていかなくてはならないが、韓国での「学暴MeToo」には、許しと反省の機会さえない硬直さがあるからだ。

「フェイク学暴MeToo」という問題も出てきている。実際には被害を受けていないのに、有名人から「学暴MeToo」を受けたという嘘の内容がSNSなどに匿名で投稿され、本人がいくら否定しても世論に巻き込まれ、釈明を聞いてもらえないともいう。活動を中止せざるを得なくなった人のなかには、偽りの暴露を投稿したユーザーを告訴し、長い時間をかけてでも濡れ衣を晴らそうとする人もいる。

 そして「学暴MeToo」がまるで流行のように注目されても、韓国内の学暴が減っているわけではない。韓国教育部の発表によると、2022年に全国小・中・高等学校で起きた暴力事案の審議件数は約2万件に上るとみられている。新型コロナウイルスの流行でオンライン授業が実施された2020年の約8300件の2倍以上だ。さらに学暴の被害に遭った生徒のうち、3人に1人は「問題が全く解決されていない」と答えたという。

 韓国の「学暴MeToo」には学暴をなくす力があるのか、それとも人々のストレスを解消してくれるリアルな復讐劇なのか、または有名人を失墜させたり政権与党を攻撃したりするための材料でしかないのか。

「学暴MeToo」をめぐる混乱は、まだ続きそうだ。

(現地ジャーナリスト/ノ・ミンハ)