「桜を見る会」で挨拶する安倍晋三元首相
「桜を見る会」で挨拶する安倍晋三元首相

 岸信介元首相と、その孫である安倍晋三元首相を描いた映画「妖怪の孫」の上映館が急速に拡大している。公開予定を含めると、すでに全国50館以上での上映が決まっており(4月4日時点)、3月17日の封切りから比べると2倍以上に増えた。安倍元首相の政治姿勢を検証したドキュメンタリー映画でありながら、これまでは地元・山口県では上映されていなかったが、4月7日からは「イオンシネマ防府」で上映されることも決まった。なぜこれほど反響が大きくなったのか。内山雄人監督、プロデューサーの古賀茂明氏、映画館関係者に話を聞いた。

【映画「妖怪の孫」のメイキングシーンはこちら】

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 3月末の平日。筆者が「妖怪の孫」を見ようと、東京の「新宿ピカデリー」を訪れると、上映2時間前だというのに座席残数はすでに「△」。前列と一番隅の席の5席しか残っていなかった。平日の昼に満席状態になるほど、客足は順調のようだ。

「公開後1週目は、地方はガラガラでしたね。都内はまあまあの入りでしたが、大阪もサッパリ。でも、映画を見てくれた人の口コミや、宣伝効果が出てきた公開2週目からは、一気に満席となる劇場も増えてきて、調子が上がってきました」

 こう語るのは、同作の内山雄人監督。内山監督によれば、3月17日の公開から3月末までの2週間の観客動員数は1万5000~1万6000人。同作のようなドキュメンタリー映画は動員1万人を超えれば、業界ではヒットとみなされるが、すでにその基準はクリアしている。

「日本全国で『これは見るべき作品だ』という声が広がってきて、様子見だった映画館も食いついてきた。菅義偉前総理を題材とした私の監督作『パンケーキを毒見する』は観客動員数6万人超でしたが、これを超えるかもしれないという期待もあります」(内山監督)

「妖怪の孫」は、安倍元首相の政治姿勢に疑問を投げかけるシーンも多い。それゆえ、一部からは激しい批判があったという。

「当初は苦情に悩まされました。『タイトルに妖怪とつけるなんて元総理に失礼じゃないか』『なぜ死人にムチ打つような作品を上映するんだ』などと延々と言い続けられました。それが数日続いたので、映画館側から『何とかしてください』と泣きが入った。そこできちんと窓口をつくって、苦情に対して誠実に対応するようにしたのです。そうしたら攻撃的な電話はスッとなくなりました。安全であることがわかって客入りも増え、様子を見ていた映画館も上映に踏み切るようになったのだと思います」

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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山口県の映画館を直撃取材