※写真はイメージです。本文とは関係ありません
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「その3カ月前には彼氏がいないと言っていたのに……。お見合いをして、あれよあれよという間に話が決まったそうです。私、彼女が退職のあいさつが忘れらなくて。『これからは主人のためだけに生きていきます!』って言ったんですよね」

 前時代的なセリフに驚かされはしたが、彼女の気持ちもわからなくもない。

「勤め先には女性社員が20人ほどいるけど、そのなかで既婚者は2人だけ。どちらにもお子さんはいません。そうした光景を見ていると、この先、結婚して家庭を維持し、人によっては子どもを育てながらこの会社で働いていくっていうイメージが持てませんよね」

 そのような環境で、生活の安定を求めて結婚するケースをモモエさんはいくつも見てきた。しかし周囲に漂っている「結婚すれば幸せになる」「養われるのが女の幸せ」という考えには懐疑的だ。先のことは誰にもわからないし、人の妻となったことで安定を得られるとは思えない。

 モモエさんは、今後も働きつづけたいと思っている。生きていくには当然のことだ。しかし40代で未婚、両親と同居している自分が、狭くて密なコミュニティーではどのように言われているのかは、だいたい想像がつく。本人が結婚を望んでいなくても周りからは「していない」ことだけが取り沙汰され、仕事をつづけたいということについては話題にものぼらない。モモエさんはその話しぶりからも自立した女性だとわかるが、地元でそれは評価されない。

 その人の評価は、その人自身によってでなく、しがらみのなかのどの位置にいるかで決まる。真実の出身大学は、県下では有名な“お嬢さん大学”で、地元企業にはわざわざ就職の枠を設けているところもあるという。真実の姉から、それは「お嫁さん枠」を意味するのだと聞いて、東京育ちの架は驚く。

 ただし真実はその枠には入らず、親の伝手で県庁に就職する。同じく臨時職員の同僚には、出産で一度辞めたが経験値を買われて再契約した女性もいる。キャリアを築くことはむずかしくとも、それなりに長く勤められたかもしれない仕事を辞めてまで、真実は地元から出た。

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地元を離れるのは、簡単なことではない