※写真はイメージです。本文とは関係ありません
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 自分で選び、獲得した場所でも、しがらみができる可能性はもちろんある。

 真実も、実家を、地元を出ることで何かから逃れることができたのだろうか。断ち切りたいしがらみはあったのだろうか。そして上京することで何かを獲得できたのか。ともかく結婚がしたくて、架と出会い、婚約した。架の友人たちとも何度かあった。その人間関係は、真実にとって新たなしがらみとなるものだったのか。

 その後、真実は失踪してしまう。真実の地元で知人らから話を聞き歩くことで、架にはこれまで見えていなかった真実の輪郭が見えてくる。

『傲慢と善良』は二度読みたくなる小説だ。一度目は、真実の行方、そして架との関係がどうなるのかが気になってページをくる手が止まらない。二度目は、真実がずっと抱えてきた生きづらさをつぶさに拾い、自分や誰かと重ねながらじっくり読む。何度読んでも発見があり、だからこそ「人生でいちばん刺さった」と感じる人が、きっと多いのだろう。

(取材・文/三浦ゆえ)