前列左から羽村玄チーフ・プロデューサー、佃尚能デジタル・プロデューサー、酒井朋子ディレクター。後列左から増澤尚翠ディレクター、浜田龍ディレクター(撮影/上田耕司)
前列左から羽村玄チーフ・プロデューサー、佃尚能デジタル・プロデューサー、酒井朋子ディレクター。後列左から増澤尚翠ディレクター、浜田龍ディレクター(撮影/上田耕司)

「LOVE & PEACE-みんなでシェア!-」。これは、昨年末の第73回NHK紅白歌合戦のテーマだ。テレビで生放送が見られるだけでなく、SNSなどで番組が「シェア」されること――これがNHKの大きな目標だった。結果はリアルタイム視聴率こそ1989年以降で過去2番目の低さだったが、SNSでの関連投稿は1000を超え、同時配信・見逃し配信の「NHKプラス」での視聴数は約120万を記録した。生放送の裏では、各部門から集められた「精鋭」たちがSNSを駆使して、若者へ向けたさまざまな施策を行っていたのだ。デジタル戦略の中心となったプロデューサーやデジタルチームのメンバーら5人が初めてインタビューに応じ、舞台裏を語った。

【写真】紅白は「終わるかもしれない危機感あった」と語ったNHKチーフプロデューサー

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「昨年の夏、編成局とメディア戦略本部と現場が話し合い、紅白のデジタルシフトを明確に掲げていこうと決めました。生放送だけではなく、デジタルを土台にした展開を考え、新しく設けたYou Tube『NHK MUSICチャンネル』とツイッターなどを活用して、SNSで放送前の盛り上がりをつくるところから始めました」

 こう話すのは、紅白の責任者である加藤英明制作統括だ。

 2021年末の紅白の視聴率は歴代ワーストを記録し、若者の「紅白離れ」が叫ばれて久しい。そもそも、自宅にテレビのない若者も増えている。紅白を生放送で見ることは少ない若者たちに、SNSなどで興味を持ってもらうことが出発点だった。

 そこで、NHKのさまざまな部署で働くスタッフに声をかけて「デジタルチーム」を結成した。「SONGS」を担当しながらデジタル部門のリーダーも務めるチーフ・プロデューサーの羽村玄さん、「うたコン」担当の浜田龍さん、「Venue101」担当の増澤尚翠さんという音楽番組を長年制作してきた3人。そこへ番組のSNS発信を得意とする酒井朋子さん、さらにドラマ部門からはNHK大河ドラマの担当経験もあるデジタルプロデューサーの佃尚能さん。(冒頭写真参照)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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You Tubeで生放送の舞台裏を配信