北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 最近、30代前半の女性と話すことが続いているのだけど、驚くほど、みんなが同じことを言うことが気になっている。「30代になったとたん、周りから、結婚はどうするのか、子供はどうするのか、仕事はどうするのかと質問されるようになった」と彼女たちは口を揃える。20代のうちは「若いんだから、好きなことしなさい」と背中を押されるが、30代になったとたん、「妊孕(にんよう)性のある女」としての選択を迫られるのだ、と。そんな圧を感じる女性たちのなかには「仕事がこれだけ忙しい今、子供や結婚のことなど決断できない。だから将来のために、卵子凍結しました」という人や、「次に付き合う男性は結婚を前提にする関係にしたい。だから簡単には付き合えない。だから絶対に恋愛に発展しない女性用風俗を利用するようになりました」という人もいた。

 人生の時計をチラチラと見ながら計算して生きていかねばいけない……気分にさせられる日本の30代の女性のリアリティーに胸が重くなりながら、こういう時に高山さんと話せたらな……と思う。こんな時、「ねぇ、高山さんだったら彼女たちに何て言う?」と聞いたら、「おほほ~!」と高笑いしながら弾丸トークをしてくれるだろう。したければすればいいわよ、誰も批判しないわよ、でも「次に会う男とは結婚を前提に……なんて考え方って、かなりホラーよ」とか言うかなとか、高山さんの口調を真似してみたくもなる。

「多様性」が謳われる時代にはなっているが、一方で女性の生きづらさ、強烈なシステムと化しているジェンダーの圧は、何十年も変わっていない。性被害を訴えた女性が激しいバッシングに晒され、ストーカーに怯える女性が街中で殺される。性差別の話をしているのに「男のことも考えろ」と口を塞ぐような声は相変わらず大きい。悪い面ばかりではないが、「女の欲望」、なんて話に夢中になっていた1990年代~2000年初頭なんてものが、遠く色あせて見えるくらいに現実が厳しくなっているのも感じる。それでも、問題の根っこは変わらないまま、厳しい向かい風を受けながら女は前に進むしかない。手を取り合って。笑いながら。不真面目くらいでちょうどいいのよ、という気持ちで。

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高山さんからのお別れの挨拶