映画「エゴイスト」/第35回東京国際映画祭にて(写真=2022 TIFF/アフロ)
映画「エゴイスト」/第35回東京国際映画祭にて(写真=2022 TIFF/アフロ)

作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は高山真さんのこと。

【写真】北原みのりさんはこちら。

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 鈴木亮平主演、宮沢氷魚共演の映画「エゴイスト」が来月公開される。「セックスシーンがかなりエロいらしい!」と、私の周りでは大騒ぎする友人たちが続出しているが、原作は、2020年10月に亡くなった高山真さんの自伝的小説だ。高山さんが生みだした世界が映像化される。そのことが、じわじわと嬉しい。

 高山さんと私は同世代で、お互い30代に入ったばかりの頃に出会った。もう20年以上前のことだ。雑誌編集者だった高山さんが、私の取材に来てくれたのだけれど、インタビュアーのはずの高山さんがほぼずっと自分語りをし始めたのだった。甲高い声で、手のひらをヒラヒラさせながら、同性に関心のないノンケの男の子をどう落とすか、男の体を客体として欲望することってどういうものなのかなんて話をしてくれた。きっとこの女とは話すことがたくさんある、と高山さんは思ってくれたのだろう。

 で、その高山さんの話があんまり面白かったので、「それ、書いたらいいのに、というか書こう!」とお願いしたのが、ラブピースクラブ(私の会社)で高山さんが連載するきっかけになった。02年のことだ。高山さんの連載はあっという間にもの凄い数のフォロワー(とは当時言わなかったけど)がつき、1年後には単行本として出版された。高山さんの作家としてのデビュー作『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』(飛鳥新社)には、だから、私には深い思い入れがある。

 欲望に忠実であっていいのよ。「わたし」が主人公なのよ。傲慢に生きていいのよ。

 高山さんは、そんなふうに女性たちにメッセージを発信し続けてくれた。それが、閉塞感が深まる00年代を生きる30代の女たちに響いたのだと思う。私自身にも、もちろん、響いた。この社会で女として生きることは、「性的に値踏みされ続ける」経験の連続だったりする。そのことの居心地の悪さから私は「自分が性的に主体になる!」と、女性向けのセックスグッズの会社を始めたのだけれど、高山さんはさらに「男性を性的に客体化する」ことの意味を私に突きつけてきた。女が男の肉体を客体として見る、女がセックスを買うという選択肢だってあるのよ!と。新宿2丁目のウリセンバー(男性向けに性を売る男性たちのお店)に「誕生日プレゼントよ、きれいな男の子を見に行きましょう」と私を連れて行ってくれたのは何歳の誕生日だったか忘れてしまったけれど、私にとっては自分のセクシュアリティーの冒険を高山さんに伴走してもらっているような思いだった。この社会で女でいること、ゲイでいること、その困難さは時に重なり、時にはかなり深い溝の存在に気がつかされながら、高山さんとの対話が楽しかった。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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変わらないジェンダーの圧に、高山さんと話せたら