枝元なほみさん(撮影/朝日新聞出版 写真映像部 松永卓也)
枝元なほみさん(撮影/朝日新聞出版 写真映像部 松永卓也)

 料理研究家の枝元なほみさんは、農業生産者のサポートや「夜のパン屋さん」「大人食堂」などフードロス×飢餓ゼロ運動に力を注いでいます。世界的なパンデミックや戦争の影響で、ますます高まる食への不安。枝元さんは、これまでの価値観のままで暮らしていては未来を食べ散らかすことになる、と危惧しています。枝元さんがフードロス問題を考えた新刊『捨てない未来――キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』から、一部を抜粋・改変して公開します。暮らしの「豊かさ」とは何か、いまだからこそ、考えてみませんか。

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■2、3週間もつ材料を1日で使うことも

 長いこと私、料理を仕事にしています。分野は家庭料理。人が食べて生きていく、その日々の暮らしの中にある料理を考える仕事です。いろいろな食材と向き合い、冷蔵庫を開けたり閉めたり火の前で鍋を振ったりしながら、30年ほどキッチンで働いてきました。

 家庭料理を作りながら実際の家庭料理と違うところは、仕事にしているということ。家族や友人たちと食べる料理を作るのではなく、写真に収めてもらうための料理を作るわけです。場合によって10時間も12時間も立ちっぱなしで多種類、大量の料理を作ったりするわけで、家庭だったらやりくりしながら2週間、3週間もつような材料を1日で使います。おまけにもし失敗したらなんて思ったり、作る途中のプロセス写真を撮るなんていうこともあったりして、買う材料はつい多め多めに、となります。

 そんなわけででき上がりの料理もさることながら、半端なものが途方に暮れる量で残ります。役割は終えた、とそれらをそのままごみ箱行きにする? ふるふるふる(震えて否定)、そんなことをしたらもったいないおばけが出て、きっと私は地獄行きだとずうっと思ってきました。どうにかしてみんなに持って帰ってもらいたい、胃袋に収めていただきたい、そのために頑張る、それでも切りかけや切れ端の野菜、半端の肉なんかが残ります。それゆえ仕事の翌日や翌々日は冷蔵庫整理の料理が続きます。

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料理をしながら食べ物を捨てない修行をする