※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 健康志向が高まる中で、多くの中高年が登山を楽しんでいる。一方、登山中の事故や病気で救助を要請するケースは後を絶たず、中高年は命を落とすリスクが高いことがわかっている。死亡につながるトラブルから身を守るためには何をすべきなのか、日本山岳会群馬支部が主催する「健康登山塾」で塾長をつとめる齋藤繁医師(群馬大学医学部附属病院・病院長)に話を聞いた。

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■登り始めのハイペースが死を招く

 警察庁が発表した「令和3年における山岳遭難の概況」によると、救助要請のあった遭難者3075人のうち40歳以上は78.4%、60歳以上は全体の48.3%を占めていた。登山者は中高年が多いとされているので、とりわけ中高年が遭難しやすいわけではないが、死者・行方不明者にしぼると40歳以上は92.9%、60歳以上は71.7%に跳ね上がる。齋藤繁医師はこう話す。

「健康登山塾」で塾長をつとめる齋藤繁医師(群馬大学医学部附属病院・病院長)
「健康登山塾」で塾長をつとめる齋藤繁医師(群馬大学医学部附属病院・病院長)

「命にかかわる事例は、転倒や滑落のような外傷系よりも『病気』によるものが多い傾向があります。山における病気の代表例が高山病ですが、症状が出た時点で高度を下げるなど適切な対応をとれば命を落とすような事態は避けられます。それよりも危険が大きいのは、不整脈や心筋梗塞(こうそく)、脳出血といった『心臓・血管系の病気』による突然死です」

 登山は、荷物を背負った状態で坂道の上り下りを長時間続ける運動だ。とくに登りでは、筋肉が多くの酸素やエネルギーを必要とするため、心臓は拍動を増やしてたくさんの血液を送り出さなければならない。その結果、血圧(血管内の圧力)も上昇し、心臓や血管には平地を歩いているときよりも負荷がかかる。

 負荷が悪いわけではなく、適度であればむしろ心肺機能が鍛えられ、からだにいい影響を及ぼす。しかし自分の体力を超えたハイペースで登ると、負荷がかかりすぎて、病気や事故につながってしまう。また、数分間ガッと登って立ち止まって休むという歩き方は、低酸素状態になる時間が長くなり、バテやすい。

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山の突然死の典型例は?