3000万円で売っていた「聖本」。全国弁連が開示した(撮影/米倉昭仁)
3000万円で売っていた「聖本」。全国弁連が開示した(撮影/米倉昭仁)

 旧統一教会は正体を隠して伝道を行い、相手を知らず知らずのうちに教義を疑わない“かたい信者”にしたところで高額な物品を売りつける。集会の会場に展示された『天聖経』は430万円。『聖本』にいたっては3千万円。代金は「献金」として教団に渡される。商取引ではないので領収書は発行されない。さらに信者には被害者であるという意識もない。

「このような献金被害を消契法あるいは特商法で規定するのは本当に難しい。新法をつくるとしてもどういう規定にするのか。旧統一教会が組織的に被害者の信教の自由を奪い、財産権を侵害していることは明らかですから、私は解散請求で対応することが一番いいと思っています」(川井弁護士)

日本はカルトの吹きだまり

 一方、阿部克臣弁護士は「消契法や特商法を使いやすいように改正すれば、さまざまなカルトと戦う『武器』が増える」と、メリットを挙げ、こう続けた。

「いま、日本は世界中から有象無象のカルトが集まる、まるでカルトの吹きだまりのような状況になっている」

 日本脱カルト協会の代表理事を務めた故・高橋紳吾さんによると、1970年代、欧州では日本と同様、旧統一教会の活動が猛威を振るった。その後、EC(ヨーロッパ共同体)や加盟諸国は次々とカルト対策を打ち出し、旧統一教会はほぼ撤退した。

「一方、日本は1995年にオウム真理教による無差別殺人事件という甚大な被害を経験した国であるにもかかわらず、カルトについての抜本的な解決策を見いだせないまま今日にいたっています。旧統一教会による被害も根絶されないままです」(阿部弁護士)

 なぜ、日本ではカルト対策がほとんど打ち出されてこなかったのか。前述の山口弁護士は、こう説明する。

「神道と結びついた戦前の宗教行政の反省に立って、行政が宗教界に干渉することはよくないこととされてきました。しかしながら、旧統一教会による多大な被害が長年続いてきた現実があります。さらにこれまで細々と看板を掲げてきたさまざまなカルトの“メシア”たちがウェブ社会になってからインターネットを通じて信者を増やしている。それをめぐるトラブルの相談が最近とても増えています。本当にこの機会に宗教行政を根本から問い直さなければダメだと思います」

9月16日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が都内で集会を開いた(撮影/米倉昭仁)
9月16日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が都内で集会を開いた(撮影/米倉昭仁)

カルト問題は宗教問題か

 ちなみに、カルト対策の先進国、フランスの反セクト(カルト)法は教義の内容には踏み込まない。個々の教団の活動によって生じた被害のみを問題としてとらえる。カルト問題は宗教問題ではない、という姿勢を明確にしている。

「反セクト法を日本に直輸入するわけにはいきませんが、示唆に富むものだと感じています」(山口弁護士)

 安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけにして30年ぶりに浮上した旧統一教会問題。5年後、10年後、結局何も変わらなかった、としてはならない。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)