「中国には、まだ台湾を攻撃する自信も余裕もない。半導体も台湾の生産に頼りきっている。台湾企業も中国にたくさん進出して中国の経済を支えている。米国もいるし、今回は台湾を攻撃はできない。だから見せかけの脅しだってわかっていた」

 中国の軍事演習はなお断続的に続くようだ。習近平氏が、最高指導者を規定の2期10年で終えないで在任を続ける「3選」が、秋の共産党大会で確定するといわれている。そのときまで軍事演習は緩まないと、台湾の人々は見ている。逆にそれは、中国の演習は国内向けの習近平氏の威信確立のためにやっていることで、台湾を攻め落とすためではない、という解釈が成り立つのである。

 そのあたりの読みは、長年の中台関係の緊張に慣れた台湾人の玄人ぶりが一枚上手だったということかもしれない。

 しかし、今回の演習では、中国軍が本気で台湾侵攻の準備を進めていることはしっかりと伝わった。楽観的に演習を受け止めたことと、これからもずっと枕を高くして寝てていられるかは別問題である。

 26日、米国の上院議員を台湾に迎えた蔡英文総統は「最近中国は台湾周辺で軍事演習を行い、地域の安全に深刻な脅威をもたらしています」と述べた。この週は日本の国会議員団や研究者の訪問も受け入れ、「中国の脅威」を強くアピールし続けている。

 純粋な軍事力の対決では圧倒されてしまう。台湾は今後も日米や世界各国に対し、「台湾は被害者で、中国は民主主義の社会を攻撃するトラブルメーカー」という印象を広げる情報戦を展開する方針だ。

 野嶋剛 のじま・つよし/ジャーナリスト、作家、大東文化大学社会学部教授。1968年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。朝日新聞社入社後、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年に退社。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に執筆活動を行っており、著書の多くが中国、台湾で翻訳出版されている。最新刊は『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)。