昔は、「お医者様の言う通りにしていれば間違いない」という考え方で、治療選択をすべて医師に委ねる患者も多くいました。今は医療が商品化され、それを買うのが患者、つまり医師や病院からみると「患者様」であるという考えが主流になっていますが、本来、医師と患者の関係には上も下もないはずです。医療においては医師と患者がともに力を尽くし、一緒に病気を治すという考えで臨めることが理想であり、近年では患者と医療者が一緒に最適な治療方針を決めていく「シェアード・デシジョン・メイキング(SDM、共同意思決定)」の概念も広まりつつあります。

 医師と患者がともに取り組む医療において、コミュニケーションは非常に重要な役割を果たすと考えられており、コミュニケーションが治療の効果や患者・家族・医療者の満足度に大きな影響を与えることも明らかになってきました。そのエビデンス(科学的根拠)を示す報告も出ています。

 例えば、高血圧患者の治療に関する報告では「医療者が患者に対して適切な情報を提供した場合のほうが、そうでない場合より診察中の患者の血圧上昇が抑えられた」という研究結果があり、糖尿病患者では「236人の2型糖尿病患者を12カ月間にわたり調査したところ、『参加型意思決定(PDM)』により患者と医療者が協働で治療方針等を決めた場合のほうが、ヘモグロビンA1cとLDLコレステロールの値を抑えることができた」という研究報告もあります。ほかにも、患者と医療者とのコミュニケーションが良好なほど患者満足度が高く、それが治療へのアドヒアランス(医師の指示を患者が守る姿勢、行動)や治療効果、患者の理解度や生活の質(QOL)などの向上につながっていることを示す論文は多くあります。

 短い診察時間に、患者と医師が良好、かつ十分なコミュニケーションを図るためには、医師の心がけももちろん重要です。しかし患者側にも、医療者から最高の医療を引き出すための「患者力」を身につけることが求められます。

次のページ
「患者力」を高めるための二つの力