(1)のケースでは、橋脚の周囲は水流で川底が深く掘られ、渦を巻いているため、そこに飛び込んで巻き込まれると浮上できなくなる。岩の下部も同様で、「アンダーカット」と呼ばれ、水の力でえぐれていて、そこに体がはまって溺れてしまう。

 (2)は、川を横断する途中、中央部が想定外に流れが速かったり、急に深くなっていたりすることがあり、流されてしまうケース。

 (3)の飲酒して川に入り、深みに足を踏み入れてしまうケースも多いという。

 (4)は、川に流されたものを夢中になって追いかけていくうちに深みにはまってしまい、自分も流されてしまうケース。

 内田さんが指摘する。

「川でサンダルや帽子が流されたら諦めてください」

■深みに気づいたときはすでに手遅れ

 いずれの場合も関係しているのが「川の深み」だ。内田さんは水難事故を減らすために最も重要なのは、川に潜む「深みの恐ろしさ」を知ってもらうことだと強調する。

「最近、川遊びでのライフジャケットの着用が広まってきました。呼吸を確保する手段としてライフジャケットは非常に有効ですが、水難事故対策の一つにすぎません。その前に、ぜひ川の深みの危険性について知っておいてほしいです。川は浅瀬から少し歩くと急に深くなる。ところが、深みに気づいたときはすでに手遅れの状態であることが多いんです。特に息を吐いたタイミングで深みにはまると、一瞬で危機的状況に陥ります。つまり、川は安全な場所と危険な場所が隣り合わせで、その落差が激しい。この情報がなかなか広まらないために、水難事故が減りません」

 なぜ、深みの危険性が認識されないのか?

「深みは岸辺から見ただけでは分かりません。だから、そのリスクを実感できないんです」

 さらに内田さんは「楽観バイアス」の存在を挙げ、こう指摘する。

「水難事故で毎年多くの人が亡くなっていることはみなさんご存じだと思います。ところが『自分だけは大丈夫だろう』と考える傾向があります。これが『楽観バイアス』です。それを認識したうえで、ライフジャケットを着用したり、川に入ることを回避したりするとか、適切な対策をとることが大切です。水難事故対策は予防がすべてです。溺れた人をふつうの人が救助するのはほぼ不可能という厳然たる事実がありますから」

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