学校のプールで行われた「浮いて待て」教室の様子。服と靴を身につけたまま仰向けに浮いて救助を待つ(水難学会提供)
学校のプールで行われた「浮いて待て」教室の様子。服と靴を身につけたまま仰向けに浮いて救助を待つ(水難学会提供)

 記録的な暑さが各地で続き、本格的な夏が近づくにつれ水辺でのレジャーも増えてくる。そこで気をつけたいのが水の事故だ。警察庁によると、昨年7、8月の水難事故の発生件数は451件。中学生以下の子どもの事故は、実に56.3%が一年のうちこの2カ月間に発生している。そして子どもが溺れて亡くなるケースの約6割が川で起きている。筆者の体験を踏まえ、水難事故の多い川や危険なケース、溺れたときの対処法などについて専門家に聞いた。

深みにはまるメカニズム

*   *   *

「ちょっと目を離した隙に、川で泳ぐ姿が見えなくなっていた」

 水難事故が起こった際、よく耳にする話である。筆者が目撃したケースもまさにそのとおりだった。まずはその体験から。

 4年前の夏。筆者は岐阜県中津川市に帰省し、家族で市内を流れる付知川を訪れた。付知川は木曽川の支流で、名古屋から車で約1時間半とアクセスがよく、この日も100人ほどが川遊びやデイキャンプ、バーベキューを楽しんでいた。川幅は20メートルほど。水深は深い場所で約5メートル。対岸には大きな平たい岩。

 事故が起きたのは昼ごろだった。家族連れでやってきた40代くらいの男性がすぐに川に入ると対岸に向かった。筆者もその後を追うように泳ぎ、男性を追い抜いた直後だった。

「その人、何か変だ!」。後ろからの声で慌てて振り返ると、そこにいるはずの男性の姿がない。水面に髪の毛だけが見えた。男性の体は水中に沈みつつあった。

「人が溺れています。助けてください!」。大声で叫ぶと、すぐに近くを泳いでいた3人が協力してくれた。だらりとした男性の手足を抱えて泳ぎ、岩の上に引き上げた。しかし、目は閉じたまま、呼吸も止まっている。

 対岸に叫んだ。「119番通報してください。意識不明です!」。すっかり気が動転していた。筆者は毎年、消防署の指導で人工呼吸法を学んでいたが、そのことは完全に頭の中から吹き飛んでいた。

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水難事故が多発する川の共通点は