「私も官僚時代に経験しましたが、震災が起こったら社会的にも緊急経済対策を打ち出さなければならない。それは時間との勝負です。性悪説に立つと、慎重にならざるを得ない。でも、政府や幹部から、そんなことは後回しでいいから、とにかく急げ、急げと指示される。1人や2人、ズルをする人がいようと、100人の真面目に働いている人を早く救いたいと思うわけですよ」

 2020年4月30日、持続化給付金事業を含む第1次補正予算案は参院本会議で与野党の賛成多数で可決された。

「ですから、いま、持続化給付金のネガティブな面をマスコミから問われても、役所側からすれば、『この仕組みは国会を経て成立したわけだから、われわれは、それに従って淡々と業務を行ったまでです』と、弁明したい気持ちがあるでしょう」

 同年5月8日の支給開始以降、不正受給の問題は徐々に明らかになってきた。6月26日、平山佐知子参院議員の不正受給の防止に関する質問に対して、安倍晋三首相(当時)は、こう答弁している。

「ご指摘の『事業収入の減少が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等によらない場合』や『事業収入が生じた日を意図的に操作することで月間の事業収入を少なく』する場合については、不正受給に当たる可能性があるものと考えている。その上で、不正受給の疑いが生じた場合には、適切に対応してまいりたい」

■「審査を厳しく」は言えなかった

 給付の実施機関である中小企業庁も手をこまぬいていたわけではない。経産省の訟務・債権管理室長、平林純一さんはこう語る。

「詐欺の手口を見つけると、それを給付金審査のチェックポイントとして積み上げていきました。さらに、過去にも同様の手口でだまされた事例がないか、洗い出しました」

 先の谷口容疑者も「20年7月後半ごろから申請が急に通りにくくなった」と、知人に漏らしたという。

 21年2月に受け付けが終了した持続化給付金は電子申請のみだったが、後継の「一時支援金」では不正受給をふまえて対策がとられた。

「持続化給付金のときは確定申告書をPDFなどの電子媒体で送っていただきました。そのため、本物を見る機会がなかったのですが、一時支援金では『事前確認』の仕組みを導入しました。確定申告書を金融機関や商工会議所、税理士事務所などに見てもらったうえで申請してもらう。それによって、学生など、事業実態のない人たちが不正受給することは難しくなりました」(平林さん)

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