6月22日4時すぎ、インドネシア入国管理局の職員とともに空港に向かう谷口光弘容疑者(中央)/ジャカルタ
6月22日4時すぎ、インドネシア入国管理局の職員とともに空港に向かう谷口光弘容疑者(中央)/ジャカルタ

 6月22日、インドネシアで逮捕された持続化給付金を巡る詐欺グループの主犯格・谷口光弘容疑者が、日本へ移送中の機内で警視庁に詐欺の疑いで逮捕された。総額約10億円の持続化給付金の不正受給に関わったとされている。

【写真】谷口容疑者が身柄拘束される直前までしていた、対話型アプリでのやりとり

 いま、持続化給付金詐欺の摘発が相次いでいる。給付要件を満たさないにもかかわらず、「過って」申請を行ったケースについて、経済産業省が自主返還を求めたところ、返還金額は約166億円に達した(6月9日時点)。そもそも、持続化給付金事業は不正受給の起こりやすい抜け穴だらけの制度だった。ゲームやソフトウェア開発では抜け穴対策は必須である。同様の手法をとれなかったのか? 経産省の元官僚で、現在、同省のアドバイザーなどを務める政策アナリストの石川和男さんに聞いた。

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「ずる」「いかさま」を英語で「チート(cheat)」といい、ゲーム業界ではチート行為を行うプレーヤーを「チーター」と呼ぶ。

 ゲームを開発するセキュリティー担当者は「悪意のあるチーターの視点」で抜け穴を探して、それを埋める作業を行う。実際にチーターを雇い、開発に生かす企業もあるという。

 チーターは一定の割合で、世の中のどこにでもいる。不正を防止するため、持続化給付金の制度でもチーターの視点に立った同様の対策をとれなかったのか?

 石川さんは、こう語る。

「治安を担う警察庁や防衛省のような組織であれば、できたかもしれません。しかし、経産省のような経済官庁では、そもそも、そういう発想は出てきにくいと思います。新型コロナ禍で打撃を受けた中小企業や個人事業主に一日でも早く、お金を配りたい。役所の中にいる人たちの正義感は非常に純粋です」

 しかし、給付金詐欺では、経産省の元若手官僚2人の有罪判決が確定した。

「残念なことに、そういう人もまれにいます。でも、ほとんどの職員はほんとうに真面目なんです」

■性悪説に立ってつくらない

 結果的に持続化給付金の制度が「大あま」なものとなった背景について、石川さんは、こう語る。

「日本って、もともと『性善説の国』なんですよ。だから、性悪説に立ってこういう制度をつくらない。それはなぜか? 理由は特にありません。『日本だから』としか言いようがありません」

 さらに、性善説に立たなければ、早期救済のための手続きの簡素化や素早い予算編成はできないという。

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