警察庁の発表によると、不正受給で検挙された3700人余りのうち、約7割が20代以下の若者だった。

 一時支援金以降、「いまのところ、不正受給と認定している事案はありません」と平林さんは言う。

 であれば、最初から同様の対策をとれなかったのだろうか。前出の石川さんは、こう振り返る。

「それは、新型コロナが落ち着いてきたいまだから言えることです。確かに『もっと審査を厳しくしたほうがよかったのでは』と、考える人が増えてきました。でも、当時はそういう状況ではなかったはず。当時は、明日必要なお金がない、という人が大勢いた。切迫した状況下で、給付が遅れてもいいから厳密な審査がよいのか。それとも、多少詐欺があったとしても一日でも早く、救える人を救うか。どちらが国民にとってよかったのか? そう考えると、あの仕組みは仕方のないことだったと思います」

■積極的に「評価」してよい

 持続化給付金は総額約5.5兆円が支給された。

「不正受給の総額はいまのところ約166億円です。金額が大きいので『正直者がばかを見た』と、怒りを覚える人が多いのは理解できます。ただ、総支給額と比較すると、不正受給は全体の約0.3%です。つまり、お金が必要な99%以上の人に行き渡ったわけです。給付金事業としては極めて優れた結果で、むしろ、積極的に評価していいと思います」(石川さん)

 一方、反省点も指摘する。

「もっとも大きな教訓は、デジタル化をもっと早くから進めていればこんなことにはならなかった、ということです。つまり、今回の抜け穴は、『アナログの穴』なんです。ダジャレじゃないですけど」

 アメリカでは全国民にソーシャル・セキュリティーナンバーが付与され、それが納税記録、金融機関の口座にひもづけられているため、申請なしで給付金を受け取れた。石川さんは不正を防ぐための一案を、こう提示する。

「例えば、災害が起こったとき、セキュリティーのきちんとした給付金申請のアプリをつくって、被災者のスマホにダウンロードしてもらい、マイナンバーと金融機関の口座をリンクさせる。そうすれば、不正受給が疑われるとき、瞬時にお金の流れを追えますから。これからはそんな不正防止策が必要でしょう」

 現在、経産省は不正受給の調査を継続中である。提出された書類の調査には時間がかかるため、これまでに摘発されたのは特に悪質なケースだけで、氷山の一角にすぎないだろう。

「これからは、もっと不正受給者が表に出てくると思っておくべきでしょう」(石川さん)

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)