チームは毎試合のように取っ替え引っ替えの投手リレーが当たり前になり、4、5人継投はザラ、勝てるとみれば6、7人も継ぎ込む総動員体制のなか、直球とスライダーの威力が増した石本は、鈴木康二朗とともにダブルストッパーを形成。8月には5勝1敗2セーブの活躍で初の月間MVPを受賞した。

 10月16日の日本ハム戦で19勝目を挙げた石本は、当時の最高勝率の条件となる規定投球回数到達まであと1イニング。同20日のシーズン最終戦、南海戦で、タイトルとチームのAクラス入りをかけて、7対3とリードの7回2死からマウンドに上がった。

 だが、「負けられない」のプレッシャーから平常心を失った石本は、9回に1点差まで迫られ、なおも2死一、三塁のピンチ。そんな瀬戸際で最後の力を振り絞り、高柳秀樹を投ゴロに打ち取った瞬間、「ガクッと膝の力が抜けた」という。「(岡本伊三美)監督に『イシ、おめでとう』と握手されたとき、ジーンと涙が込み上げてきて、どうしようもなかった」。

 70試合に登板し、19勝3敗7セーブ。最多勝こそわずか2差で佐藤義則(阪急)に譲ったものの、初タイトルの最高勝率と最優秀救援投手の二冠を手にした。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら