小学生からプロを目指す選手まで幅広い世代に打撃を指導する菊池拓斗さん
小学生からプロを目指す選手まで幅広い世代に打撃を指導する菊池拓斗さん

~全身のメカニクスが効率的に連動することで理想的なスイングが生み出せる

 上半身、下半身の各部位に必要なメカニクス(正しい打撃中の動作)が存在している。それらは独立するものではなく連動することでさらなる相乗効果を生む。理想的なスイングができて結果を出す確率を高めることができる。一定の部位やバットなどのギアに頼るのでなくメカニクスを習得することが重要だ。

「少年野球や高校野球でもスイングや身体の使い方の進化は見て取れますが、まだまだメカニクスに関係なく強く振ることを重視する傾向があります。バットの性能も良いのでとりあえず強く振ればよく飛んで、今ひとつメカニクスの重要性が分かりづらいものです」

「コンパクトなスイングに変えるとバッティングが弱まった感覚があるかもしれませんしメカニクスの改善は動きにくさを感じるかもしれません。メカニクスを意識しすぎず気持ちよく振ることも必要ですし、試合になればその思い切りの良さも大切です。メリハリを持って練習段階ではしっかり自分の課題に取り組むことが必要です」

「スキルを高めようと思ったときに、指導者や選手が正しく情報を受け取ることも大切です。ネットや動画でたくさんの技術論に触れられるからこそ、それをどう生かすか、子どもたちにどう伝えるか、芯を持つ必要があります。日本の勝利至上主義を問題視する人もいますが私はそうは思いません。米国でも試合にかける思いは同じくらい高いです。コーチは長い目で試合で活躍できる選手に育てることが大切です。


~大谷は全身連動の重要性を理解した上で下半身を省略している

 日本人メジャーリーガーの打撃はどうか。二刀流の大谷翔平(エンゼルス)を筆頭に、筒香嘉智(パイレーツ)、鈴木誠也(カブス)らは米国でもアジャストできるよう変化も見受けられる。メカニクスを理解し自分なりにうまくアレンジして習得しているようだ。

「日本人選手が米国で結果を出すには環境を含め様々な要素があります。その中で共通する正しいメカニクス、身体の動きはあります。それを習得していかなければ結果を出すのは難しいと思います。例えば大谷はメジャー投手の球威や変化球に対応するため下半身の動きを省略した。下半身のメカニクスを省くためにウエイトトレーニングで全身の筋力アップを図って補っている。上半身と下半身の連動について理解した上で全てを計算して作り上げた打撃フォームだと思います」

「筒香は2022年からスイングが明らかに変わって良くなったと思います。元々パワーもあるのですがダウンスイング気味。トップハンド(捕手側の手)をボールにかぶせる、身体の近くで打つのが難しいスイングでした。今は捕手側で素早くバットヘッドを下げ投球軌道にバットが早く入るようになりました。まだまだアベレージヒッター感がありますが、ライナー性の打球が増えて打率も上がるはずです」

「鈴木は強く振れる選手。ボトムハンドを伸ばしてテイクバックを取るのが特徴的です。ここから腕がスムーズに前に出るのでドアスイングにならずフォロースルーが大きくなります。腕が伸びると遠回りになりやすいのですが、真っ直ぐ前に出てくれば強いスイングで打ち返せます。素晴らしいフィジカルの成せるスイングです」

 本来はトップハンドが伸びているとドアスイングなどになりやすい。でも鈴木の場合は、トップから体幹が回ってセンター方向へバットが出ていく。グリップが身体から離れていかないのでドアスイングにならない。グリップが一塁側に離れてしまうようになると調子が出ないかもしれない。それがセンター方向へ真っ直ぐ出て行くうちは長打も出やすい。なかなか真似できない部分です」

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好打者はメカニクスを理解している?