ウクライナ侵攻を受けて、日本政府や防衛省、自衛隊がこれまでにない動きを見せている。ウクライナ側に立った自衛隊幹部の発言、テレビやインターネットでの詳細な戦況解説、米軍輸送機による装備品の空輸など、20年以上、自衛隊を取材してきたフォトジャーナリストの菊池雅之さんも驚くほどの大きな変化が起きている。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶
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菊池さんがもっとも驚いたのは3月10日、記者会見での吉田圭秀陸上幕僚長の発言だった。
「ロシアが制空権を掌握しないまま4正面すべてから侵攻したとすれば、当初は短期戦を想定していたとみられる。しかしながら、兵士の士気や国民の支持など、目に見えない無形戦闘力はウクライナ軍に利がある」
吉田幕僚長は、こう述べると、さらに続けた。
「(ロシア軍)全体の後方支援、兵站(へいたん)を支えるのは非常に大きな問題がある」
この発言を受けて記者会見場はざわついた。菊地さんは言う。
「まだ、侵攻開始から2週間ほどしかたっていない、戦況がまだよくわからない時期に自衛隊が公式にコメントを出す、というのは異例中の異例です。でも、それ以上に、これはもう完全にウクライナ側に立った戦況分析ですよ」
自衛隊は1954年の発足以来、国際的に中立の立場を堅持してきた。しかし、今回の陸上自衛隊トップの発言はそれを覆すものだった。
「防衛省担当記者も『これほどすごい発言をするとは思わなかった』と言っていたくらいです」(菊池さん)
上意下達の官僚組織でもある自衛隊が、幕僚長とはいえ、個人的にこのような発言をしたとは考えにくい。政府の意向が強く働いていた、と菊池さんは見る。
■毎日テレビでコメント
というのも、異例ともいえる情報発信は吉田幕僚長だけにとどまらないからだ。
これまで防衛省は北朝鮮や中国、極東ロシアなど、日本と直接関係する国々の軍事行動について情報を発信することはあったが、それ以外の地域で起こった国際紛争についてはほとんど言及してこなかった。
ところが、今回のウクライナ侵攻については、ホームページやTwitterに掲載した地図上で戦況を細かく解説するほか、防衛省防衛研究所の研究員が毎日のようにテレビに出演してコメントしている。
「これまで20数年間、自衛隊を取材してきましたが、見たことのない事態です。ふつうに考えれば、情報を出すメリットはないんです。もし、その分析が間違っていたとしたら、デメリットしかないわけですから。それに、紛争国との関係維持を考えたら、口をつぐんでいたほうがいい」