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内田:「不条理論」ですね。コロナを巡る言説は大きく分けると「条理論」と「不条理論」になりますが、岩田先生は「不条理の人」なんですね。

岩田:そうですね、不条理側の人間です。

内田:原理原則なんてものを求めない。ウイルスに内的論理などないのだから。でも、それこそが不条理な世界に対する適切な対応だと僕は思います。世界が不条理であることを受け入れて、しかしそれでも限定的にではあれできることがあると考えて対処する。

岩田:実際、感染症のエピデミックとかパンデミックは人類史上何度も起きているわけです。神の懲罰だとか、宇宙の摂理ではありません。「日本がコロナ感染を抑えられているのは、何らかの『ファクターX』があるからだ」という議論も何度かありましたが、結局何も証明されていない。言うなれば、「世界には法則がある」として解き明かすのも科学性ですが、「世界はランダムで予測できない」というのも科学的な見地なんです。

 量子力学では、ミクロにおける原子や電子の場所は確率でしか示せず、「絶対にそこに在る」とは断定できない、と考えるそうです。同様に、(アナロジーとしては不適切かもしれませんが)コロナのような感染症も不確かな現象であること。それを共通認識にすれば、私たち日本人もより寛容的な方向へ変わるのではないかと思います。