内田樹さん(左)と岩田健太郎さん(c)水野真澄
内田樹さん(左)と岩田健太郎さん(c)水野真澄

 なぜ、いじめはなくならないのか。最新共著作『リスクを生きる』(朝日新書)で哲学者・内田樹さんと医者・岩田健太郎さんは「アイツはいじめてもいい」と犬笛を吹く存在を鋭く指摘する。リスク社会を生き抜くための視点を本書から抜粋してご紹介する。

■いじめにGOサインを出す教師

岩田:コロナ禍以降に若年層の自殺者数が増えているというニュースがずいぶんありました。

内田:そうでした。

岩田:学生と社会人では、自殺の理由もだいぶ違いがあると思います。以前、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法――日本の空気、体質を変える』(光文社新書)を書いたときに、小中高校生の自殺についてかなり調べたんです。学童の自殺の原因はほとんどがいじめなんですね。ただ調べ方によって、結果にだいぶばらつきが出ます。文科省が取ったアンケートではいじめ以外の原因が多く、民間団体が実施するアンケートでは、いじめがほぼ主要因なんです。というのも、文科省のアンケートは設問が誘導尋問的で、さらに問題なのは、学校の教頭先生にアンケートを取っているんですね。教頭先生に訊いたら「学校には問題はない」と当然言うでしょう。「訊く相手を間違ってるよ」と僕は思うんですが。

内田:僕も子どもの頃にいじめられた経験がありますからわかります。学校でのいじめって、基本的には教師が暗黙のGOサインを出しているんですよね。

岩田:「いじめてもいいぞ」、と。

内田:はっきりと態度にする場合もあるし、暗黙の場合もありますけれど、教師が「こいつはいじめても構わない」というサインを出しているんです。子どもは「いじめても処罰されない」という保証がないと、なかなか踏み切れない。だから、この子をいじめたら、先生からきびしく咎められるということがわかっている子には手を出さない。

 先生だって、気に入らない子がいるんです。大人の本音を見透かしているような子どもや、統制を乱すような子どもは、先生にとっても目障りだし、疎ましい。そういった子に対しては、叱り方に微妙にとげがあったり、絡みかたがしつこかったりする。そういうわずかなシグナルでも「あいつはいじめても大丈夫」と子どもたちはわかる。

岩田:そして、集団でいじめる。

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本気で学校からいじめをなくしたいと思っているなら