内田樹さん(c)水野真澄
内田樹さん(c)水野真澄

内田:子どもたちも、程度の差はあれ、暴力的なものをうちに抱えているんです。これはどうしようもない。だから、その暴力性や攻撃性をどうやって適切にリリースするか、それを教育者は工夫しなければいけない。子どもは誰もが「天使」であるわけじゃない。けっこう禍々しいものを抱え込んでいるんです。

 だから、本気で学校からいじめをなくしたいと思っているなら、「子どもには攻撃性、暴力性が潜んでいる」ということをまず認める必要がある。その上でそれを小出しにリリースさせて、クラスメイトに向けて暴発するきっかけを与えないように気づかう。子どもが子どもに向けて暴力を振るってもいいという「言い訳」を決して子どもに与えてはいけない。

岩田:その言い訳とは、特定の子を「叱る」ような、教師自らが出すGOサインのことですね。

岩田健太郎さん(c)水野真澄
岩田健太郎さん(c)水野真澄

■安全保証、社会的承認、且つ歓待

内田:そうです。でも、教員養成課程で「教師自身に嗜虐的傾向があること」のリスクについてはたぶん問題にされていないと思う。若い教師志望の大学生に向かって、「きみたちは生徒にとって非常に危険な存在になり得る」ということを教える必要があると僕は思います。教師は目に見えない刃物のようなものを持って教壇に立っている。その危険性を教師自身にまず自覚してもらうことがたいせつだと思う。教科をうまく教えるとか、進学成績を上げることよりも、「子どもたちを絶対に傷つけない」こと、それが教師の使命としては最優先されるべきなんです。

 教師の第一の仕事は子どもたちに向かって、「君たちはここにいる限り安全だ」と保証することです。「ここは君たちのための場所だ。だから、君たちはここにいる権利がある。君たちがここにいることを私は歓待する」と子どもに向けて誓言すること。子どもたちに安全を保証し、承認を与え、歓待し、祝福する。それができる人なら、教え方がどんなに下手だって、僕は構わないと思うんです。

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岩田さんが若い研修医や学生を教えるときに気をつけていること