フィギュア男子フリー前日、ジャンプの練習で転倒する羽生結弦選手
フィギュア男子フリー前日、ジャンプの練習で転倒する羽生結弦選手

「アスリートは競技中には感情を出さない方が良いとされる。フィギュアスケートも同様で採点者によっては諸刃の剣になりかねない。しかし羽生の場合は大きな武器になっている。気持ちを隠さずに出すことで感情移入した観客が惹きつけられる。会場の雰囲気が良くなれば採点者の心にも響きます」(現地取材中のスポーツ紙記者)

「当初は意識せずに喜怒哀楽が出ていて周囲から心配する声もあったと聞きます。しかし羽生には確かな技術があり感情を出すことで表現力も高まった。競技上でプラスに働くことを本人も認識しているはず。経験を重ねることで感情のコントロールも巧みにできるようになっている。氷上で究極のセルフプロデュースができている」(在京テレビ局スポーツ担当)

 演技では芸術的な美しさ、柔らかさを感じさせる一方、時に凄まじい気迫や、荒々しさを表情から読み取れる瞬間もある。氷上では様々な姿を見せ、誰もが魅せられる。フィギュアの短い演技中に人生そのものが投影されているようだ。

 そして、リンクを離れてもセルフプロデュース力を感じさせる瞬間も多い。年末になると漢字一文字で1年を振り返ることが恒例となっているが、これまで「生」「成」「長」「壁」「扉」など自身の境遇と照らし合わせた回答をしてきた。ここからも常に自身を客観的に見つめ、何事も考えながら取り組んでいることが伺える。

「キャッチーで誰もがわかりやすい漢字。生というのはケガ、故障が多かった時。そこからさらなる成長を目指したが壁にぶつかり扉を開けようともがいた。まさにストーリー仕立てで素晴らしい言葉の選択です。5つの漢字がつながっているのを見ると考えていたようにも感じる。恐れ入ります」(大手広告代理店関係者)

 今回の北京ではショートプログラムでの最初のジャンプが、リンクに空いた穴が原因となり失敗となってしまったが「なんか氷に嫌われちゃったな」と独特の表現で振り返っている。アスリートによってはパフォーマンスが上手くいかなかった後のインタビューで、感情のままに言葉を発して反感を買ってしまうケースもあるが、羽生は言葉を選びながら、かつ印象に残る“メディア映え”する発言をしてくれる稀有な存在だ。

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今後も注目が集まる羽生の言動