刺傷事件直後の現場の様子
刺傷事件直後の現場の様子

 15日に大学入学共通テストの会場である東京大学農学部の正門前で起きた刺傷事件は、世間に衝撃をもたらした。殺人未遂容疑で逮捕された名古屋市内の私立高校2年生の少年(17)は、東大医学部志望だったと言われている。

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 少年は警察の取り調べに対して、「医者になるために東大を目指して勉強を続けていたが、1年くらい前から成績が上がらず、自信をなくしていた」「東大を受験する予定だったが、勉強しろとの圧力が強く勉強が嫌だった」などと供述しているとされる。なぜ少年はこれほど追い詰められてしまったのか。医学部志望特有の苦しみやプレッシャーについて、東大医学部出身で精神科医の和田秀樹氏に聞いた。

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 逮捕された男子高校生は 愛知県内でもトップレベルの進学校に通う2年生。灘高校出身で数多くの受験テクニック本の著書もある和田氏は、超進学校の雰囲気をこう振り返る。

「私の高校でも、医学部を志望する人の多くは(医学部にあたる)東大理科III類(以下、理III)を目標にしていて、最低でも京大医学部といった雰囲気がありました。灘、開成、筑駒といった超進学校では、医学部を目指すなら東大理IIIに行くべきだという刷り込みがあって、そうではないと成功したとは言えないような風潮がある。ですが、いざ医者になってみると、医学部ほど大学名が役に立たない分野はないと感じることは多いですよ」

 しかし、進学校の医学部志望の生徒の間では、偏差値第一主義の考え方が根強く残っているという。偏差値順に上から受けていくようなスタイルは、塾による刷り込みも影響しているのではないかとみる。

「偏差値第一主義の傾向は、特に理IIIを多数輩出している塾に顕著です。こうした塾では昔よりも生徒や保護者が、学校より塾の言うことを聞くようになっていると感じます。ですが本来、医者になるのなら特定の大学にこだわるほうがおかしい。私が受験指導をしているときは、志望校と併せて他の医学部との併願を勧めています。ですが愛知県はもともと国公立志向が強く、より偏差値の高い国立の医学部を目指すことがゴールだと思っている子は少なくない。プレッシャーは大きいと思います」

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受験界にはびこる「根性主義」