雫井:そうですね。ただ、年々大変になってきています(笑)。

伊坂:僕もです(笑)。

雫井:伊坂さんの話って、どれも伊坂さんらしいんですよ。どんな話であれ最終的には伊坂さんの味わいが漂ってくるのが本当に不思議なんです。普通の人が全然思いつかないようなものをいくつも組み合わせて、自分の世界に持っていく。アイデアを誰かが借りたとしても、伊坂さんの感覚を通さないと世界観ができあがらない。

伊坂:そういった個性というか持ち味があることって、僕自身は意識して書いてはいなかったんですけど、昔、編集者に言われたんですよね。「伊坂さんの小説は好きな人は好きだけど、苦手な人は苦手だろうし、嗜好品みたいな感じだよ」って。そうなのか、と嬉しいような悲しいような気持ちになりましたが。僕はなるべく、超能力とか漫画っぽいものが真ん中にどかーんと来ないとダメな気がしちゃうんですよね。何もないものだとちょっと、「これでいいのかな」と不安になっちゃって。現実とちょっとだけ交わっている、おとぎ話みたいなイメージで小説を書いている。逆に雫井さんの作品は、しっかり現実に根付いていますよね。だから雫井さんと僕が親しいことって、意外に思われる方が多いと思う。

雫井:伊坂幸太郎と雫井脩介の2人とも好きっていう人、少ないんですかね。

伊坂:それ、知りたいです!

雫井:『犯人に告ぐ』(2004年)を出した時に、読者カードを読ませてもらったことがあるんですが、「他に好きな作家は?」という質問に対して横山秀夫さんや宮部みゆきさんという答えが多かったんです。伊坂さんの名前はあったか、なかったか。

伊坂:『犯人に告ぐ』のオビに僕、コメント書かせてもらったのに!(笑)

雫井:ネット書店も、自分の本に関連書籍として他の人の本がおすすめされたりしますけど、僕の本には、伊坂さんの本がなかなかおすすめされないみたいです。

伊坂:あ、それで思い出したんですけど、デビュー5年目くらいだったかな、当時はまだネットの掲示板とか時々、見ていたんですよね。で、その中で、「伊坂幸太郎なんかダメだ」と執拗に言う人がいて、そういう人はたくさんいるとは思うんですけど、その時のその人、「雫井脩介を見習え」的なことを書いていたんですよ、たしか。批判されるのはかなりつらかったですけど、それ読んだ時はちょっと、和んだというか、許せる気持ちになっちゃいました(笑)。「あ、そうなんだ? 雫井さんが好きな人ならいいや!」みたいな(笑)。

次のページ
雫井さんの『霧をはらう』について伊坂さんは…