東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授(提供写真)
東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授(提供写真)

 10年以上第一三共と共同研究を続け、前述のmRNAワクチンの開発にもかかわる、東大医科研感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授はこう話す。

「KMバイオロジクスのワクチン開発には、東大医科研のウイルス学者・河岡義裕特任教授がウイルスの増殖などで協力しています。またアンジェスは、もともと遺伝子治療の分野でスタートした会社です。そのノウハウを生かし、10年近く前からワクチンの開発も始めていました」(石井教授、以下同)

 アンジェスが強みとする遺伝子治療と、同社が開発するDNAワクチンは近い分野にあるという。

「遺伝子治療とは、からだの中に遺伝子を打ち、必要なたんぱく質を産生させるというものです。たとえば特定のたんぱく質を産生させる遺伝子を持たないことで病気を発症している患者に対し、その遺伝子を補充するために用いたりします。ビオンテックやモデルナも、もともとは遺伝子治療に近い分野のベンチャーとして立ち上がったと聞いています。そこにコロナが来てワクチン開発に乗り出した、という流れがあるのだと思います」

 これまでになかったタイプのワクチン開発に乗り出す企業もある。東大発の創薬ベンチャー・HanaVaxは鼻の粘膜に噴霧することで免疫を獲得する「次世代型経鼻ワクチン」の開発を行っている。同社は東大医科研の清野宏特任教授が関わるバイオベンチャーだ。今年7月、製薬大手の塩野義製薬と、新規経鼻ワクチンの開発に関するライセンス契約を締結した。

■注射以外のワクチンが広がれば接種のハードルが下がる

「ワクチンというと注射のイメージがありますが、粘膜経由のワクチンも存在します。有名なのは日本でもかつては定期接種されていた、シロップを飲んで接種するポリオワクチンです。清野特任教授は『粘膜免疫』の分野では有名で、これまでになかった鼻の粘膜から接種するワクチンをつくりたいという考えが、HanaVax設立の背景にありました。注射がなくなれば接種のハードルが下がり、医療資源が少ない地域の接種も進むと考えられます」

次のページ
7割接種済みでも国産ワクチンが必要な理由は?