「おひとりさま」の生き方を発信してきた社会学者・上野千鶴子さんがさいごの迎え方について語った本『在宅ひとり死のススメ』が話題となっています。「孤独死」とは異なる「在宅ひとり死」を積極的に肯定する、その真意とは。現在発売中の週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん 2022年版』から抜粋して紹介します。
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――「在宅ひとり死」という言葉は前向きな印象がありますね。
出版社が最初に提案してきたタイトルは「孤独死なんて怖くない」でした。一般ウケすると思ったんでしょうね。でも私が見てきた高齢者の死は孤独とは全く違うものです。違うものは違うとちゃんと言いたいと思って、「在宅ひとり死」という言葉を作りました。私がおひとりさまに関する研究をやってきたこの20年の間に社会も現場も変化して、「ようやくこのタイトルの本を出せるようになった」という感慨がありますね。
――おひとりさま高齢者の満足度に関する調査を引用されています。
メディアで紹介される国の統計はトップからボトムまで全部含まれているマクロデータで、それを見ると独居高齢者はとても悲惨です。その一方で、大阪府門真市の辻川覚志医師の調査(図参照)は、持ち家率の高い中産階級の高齢者を対象にしたところに意味があります。対象を区切ってみれば、独居でも満足度が高いということがはっきりと示されました。
■おひとりさまは覚悟が決まっている
独居高齢者には「余儀なくおひとりさま」と「選んでおひとりさま」があります。後者には「おひとりさま資源」が必要です。持ち家とか経済力、おひとりさま耐性とかですね。
辻川医師のデータでは、子どもの有無は生活満足度に関与しないということも示されていました。子どもがいる人は、子どもが家から出ていったらさびしいと思うかもしれません。でも最初から子どもがいない人は、さびしいと思う理由がありませんから。
――おひとりさまは、近年啓発が進んでいるACP(人生会議)にどう関わるべきですか。
ACPは共同意思決定のこと。でも現実的には、要介護高齢者は関係者のなかで一番弱者です。世話をしてくれる人が強者に決まっている。私はジェンダーの問題を扱ってきましたが、日本の高齢女性は自己主張しない人が多い。世話するのが女の役目で、世話する役目を果たせなくなった女は家に居場所がありません。