と同時に、これは新旧二大勢力の対立の反映でもあった。台頭著しいポップス・ロックと伝統を担ってきた歌謡曲・演歌。後者にとっては女王の死を機にジャンルの健在ぶりを示したかったのだろうが、前者には現実の音楽シーンを主導しているのはこちらだという自負があり、その復権を阻止したかったわけだ。そのために組織票が多く使われたといううわさも流れ、後味の悪い結末となった。

 さらに、この逆転劇には個人的な苦い思い出もある。大みそかに帰省した際、スポーツ紙がぶちあげていたひばり内定説を実家で自信満々に語ってしまったのだ。芸能評論家としては今でいうフェイクニュースを流したことになり、信用はがた落ちであった(苦笑)。

 それはさておき、外患についてはどうか。じつは視聴率低下に大きく影響したのはこちらだ。それまで夜9時開始だった「紅白」が二部制を導入し、7時20分スタートに変更。「レコ大」と時間帯がかぶる第1部は昭和を振り返るという懐メロ企画だったが、音楽番組であることに変わりはない。そちらに流れる人もかなりいたようで、数字は前年の21.7%から14.0%まで落ちた。

 しかも「紅白」は翌年も二部制を継続。第1部はもはや懐メロではなく「レコ大」に出ていてもおかしくはないような現役のヒット歌手が登場するものとなり、このかたちが今ではすっかり定着している。

 おかげでふたつの怪物番組の蜜月は、終わりを告げた。そもそも「レコ大」の人気が上昇したのは「紅白」の前の時間帯に放送され始めてからなのだ。かつては両方に出演する歌手が「レコ大」終了から「紅白」開始までの数分間で移動する際、両会場のあいだの信号が全部青になるらしい、という都市伝説も生まれたものだが、両者はリレーして共存する関係ではなくなってしまった。怪物同士が数字を食い合い、やがては負けた側が大みそかから追い出されてしまうわけだ。

 そんな未来が予想できたのか「紅白」が二部制の継続を発表した90年、TBSの制作部長がこんな発言をしている。

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1989年大みそかに行われた「金屏風会見」