たしかに、それらの番組では、岡村がリズムネタ芸人のネタを真似したり、彼らとコラボしたりすることで、その面白さが増幅される光景がしばしば見受けられた。リズムネタは見る人が真似したくなるだけでなく、共演者が真似したくなるという効果も備えているのだ。

 芸人をキャスティングする番組スタッフも、岡村がリズムネタに親和性があると思っているからこそ、そういう芸人を積極的に起用したりする。いわば、岡村はリズムネタという麻薬を売りさばく「死の商人」だったのだ。

 最新のリズムネタ芸人としてこの番組に登場していたのが、男女コンビのEverybodyである。彼らは『おもしろ荘』出演がきっかけで若者を中心に人気を博している。

 藤崎マーケットの2人は、彼らに対してリズムネタに安易に手を出さないようにと伝えたのだが、Everybodyの2人の意思は揺らがなかった。EverybodyのタクトOK!!は12年の芸歴の中で自分に合ったネタはリズムネタだという結論にたどり着き、ようやく日の目を見たからだ。

 実際のところ、リズムネタをやる芸人の全員が辛い目に遭うわけではない。テツandトモ、小島よしお、どぶろっくのように、それを売りにしてしぶとく生き残っている人も存在する。リズムネタが悪いわけではなく、安易にそこにすがってしまうことが問題なのだろう。

 リズムネタは栄光と破滅につながる一か八かの劇薬である。そこに手を伸ばす芸人に求められるのは、リスクを引き受ける覚悟なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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