アメリカザリガニの塩ゆで。千葉県・印旛沼のほとりにある「レストラン錦谷」で。この地域では昔からザリガニが食べられてきた。エビとカニを合わせたような濃厚な味で、女性にも人気(筆者撮影)
アメリカザリガニの塩ゆで。千葉県・印旛沼のほとりにある「レストラン錦谷」で。この地域では昔からザリガニが食べられてきた。エビとカニを合わせたような濃厚な味で、女性にも人気(筆者撮影)

 公園の池や水路など、身近なところに生息し、簡単な道具で釣りが楽しめるアメリカザリガニは子どもたちのペットとしても大人気だ。ところが先月、環境省の専門家会議はアメリカザリガニは最悪の外来生物として、積極的に防除を行う必要性がもっとも高く、対策の緊急性も高いとする提言をまとめた。すでに数十年前から子どもたちのアイドルだったアメリカザリガニがなぜ、いまやり玉に挙がっているのか? 規制や駆除をするにしても、もはや手遅れではないのか? 環境省に聞いた。

【写真】「うまい!」塩ゆでされたアメリカザリガニ

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 そもそもアメリカザリガニは約90年前、食用ガエルのエサとしてアメリカ南部のニューオーリンズから20匹ほどが輸入され、神奈川県鎌倉市の養殖場で飼育された。 ところが、それが逃げ出し、東京や埼玉、千葉方面に拡散。その後、全都道府県に広まった。

■明らかになった深刻な被害

90年ほど前、たった20匹ほどのアメリカザリガニがウシガエルのエサとして輸入され、養殖された。そこから逃げ出した個体が全国に広まった。そのほとんどが、人が持ち運び、放したものだ(環境省提供)
90年ほど前、たった20匹ほどのアメリカザリガニがウシガエルのエサとして輸入され、養殖された。そこから逃げ出した個体が全国に広まった。そのほとんどが、人が持ち運び、放したものだ(環境省提供)

 すでに1960年代にはほぼ全国に生息するようになったアメリカザリガニだが、その悪影響が問題視されるようになってきたのは近年のことという。

「貴重なトンボが絶滅してしまったり、生態系への被害が特に最近の知見でわかってきました」

 そう語る環境省外来生物対策室の前田尚大さんによると、そもそも「外来生物」という言葉が知られるようになったのはここ10年ほどのことという。

「例えば、外来生物法(正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)ができたのが2004年。そのころはまだ外来生物という概念すらあまりなかった。ですから、外来生物による影響が明らかになってきたのは比較的最近の話なんです」

 さらに前田さんは長年、アメリカザリガニの悪影響が見過ごされてきた原因について、時代の空気もあったのではないかという。
「アメリカザリガニがこれほど広まったのは、自らやってきたわけではなくて、人が持ち運んで意図的に放ったから。もちろん、そのときはまさかこんなことになるとは夢にも思わなかったでしょう。そういった時代背景もあったと思います」

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