ググれば何でも出てくるこの時代には、もはや昔ながらの「因縁」など存在しない。だから、この2021年にダウンタウンと爆笑問題が共演するのは、本来それほど驚くべきことではないのだ。

 かつてのお笑い界では、戦国時代のように血みどろの争いが繰り広げられていた。ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるず、爆笑問題など、それぞれの芸人が一国一城の主として自分たちの冠番組を持ち、ピリピリした緊張関係を保っていた。

 だが、現在のお笑い界にはそのような雰囲気はない。今の松本人志は、霜降り明星やEXITなどの歳の離れた後輩芸人に雑にイジられても悠然と構えている。

 そんな時代にこの共演劇を盛り上げるには、あったと噂される因縁をもう一度「蒸し返す」しかない。ここで太田は意図的にそのような蒸し返しを行った。自分から松本のことをイジり倒し、過去のことについてもギリギリのところまで話題に出してみせた。

 先輩である松本もそれに対して受け身を取り、きちんと技を食らってみせたことで、この世紀の大一番が盛り上がった。

 前述の『笑っていいとも! グランドフィナーレ感謝の超特大号』のときには、松本ととんねるずの石橋貴明が同じような役回りを演じていた。松本は「とんねるずが来るとネットが荒れるから!」と言い放って、とんねるずを挑発してみせた。次のコーナーに出るために楽屋に控えていた石橋はこの誘いに乗り、木梨憲武と爆笑問題を誘って、予定外の乱入をしてみせた。

 このときには、後輩の松本に対して石橋が胸を貸していた。今回はそれとは反対に、太田の仕掛けに松本が全面的に乗る形となった。

 大物芸人同士の共演が面白いのは、単にそれが珍しいからではなく、高度な技術を駆使した超一流の「空気の読み合い」が楽しめるからなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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