30分後、ある病院から受け入れ可能との連絡があり、保健所を介して患者さんは無事入院。やはり救急要請をしないと動かない部分もあるのか。おとなしく待っていてはだめなのだと痛感した。

 あとから思い返せば、その病院はおそらく木曜日の時点でも受け入れが可能であったのではないかと、予想された。コロナ感染症に関しては、病院同士のやり取りが禁じられており、すべて保健所を通さなければいけない。このルールが現場の柔軟性を奪い、患者さんの生きる可能性を奪っている。保健所は保健所で、病院に入院要請をしても断られるという状況に陥っている。一生懸命やっているのに、誰からも責められ、気の毒としか言いようがない。

 救急要請してしまえばベッドはあるのに、保健所の要請では入院を断られる。この非常時に、臨機応変な対応が全くされていないというのが窮状の元凶ではないのか。人は人の作ったルールのせいで、不便を強いられているだけではないのか。

 翌日、病室から患者さんが電話をくれた。レムデシビルの点滴が始まったら熱も下がって、すごく楽になった。酸素も94%です、と、明るい声に力を感じた。入院できたことの安心感も大きいのだろう。入院までの3日間、どれだけ不安で苦しい思いをして過ごしたのかと思うといたたまれないが、もうおそらく大丈夫だ、という安堵が思わず目頭を熱くする。

 外来で待っていますね。この一言が言えて本当に良かったと思う。

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 この記事を記述したほんの数日で、状況が確実に悪くなってきている。今や、受け入れ可能な病院では空床が出たらすぐに埋まってしまうという状態だ。保健所のオーバーワークも甚だしく、先日も、家族が発症し、明らかに濃厚接触者であり、ご自身も発熱しているにもかかわらず、PCRの手配が間に合わないので自分で探してほしいと保健所に言われた患者さんから相談を受けた。もはや、現状のシステムで持ちこたえられないことは火を見るよりも明らかである。次は、入院できない中等症以上の患者さんに、在宅酸素をクリニックが提供するという事態が現実になりつつある。

 少なくとも私のクリニックでは中等症以上で入院となった患者さんにワクチンを2回接種している人は一人もいない。ワクチンが間に合ってくれたら、供給が滞らなければ――そんな思いが切実に身に迫ってくる。どうか、これ以上、事態が悪化しないように、どうかこれ以上、誰かの大切な人が命を落とさないで済むように、いま私たちにできることを少しでもやろうと思う。

◎松本佐保姫/医師。東京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科・博士課程修了。三井記念病院内科研修、学術振興会特別研究員 東京大学医学部附属病院 特任助教を経て、2016年、江東区大島に、まつもとメディカルクリニック開院。2018年、医療法人社団慈映会設立。2021年、江戸川区西葛西に西葛西メディカルクリニック開院。

※「医療ガバナンス学会」から