自宅療養の現実は厳しさを増す(gettyimages)
自宅療養の現実は厳しさを増す(gettyimages)

 肺炎などの症状のある中等症の新型コロナウイルス患者に関し、自宅療養とする、という政府発表に、社会が大きく揺れた。その後、与党内からも批判がでて酸素投与を必要とする中等症患者は入院と、また方針を転換した。

【もしもの自宅療養の備えでこれだけは必要な物とは? リストはこちら】

 政権が、与党が何を決めようが実際に現場では中等症はおろか重症の患者さんでさえ、スムーズに入院させてあげることができない。現実と、政策発表との間の乖離にまさに片腹痛しとはこのことである。「政治家はまず現場を」と切に言いたい。

 様々な報道で、自宅療養の現実が語られている。実際、患者さんの口から、命の危険を感じたという訴えも多くある。

 ここでは私が、医師として経験したケースをお伝えしたい。

 患者さんは50代の女性で、もともと高血圧症で定期的に通院していた。笑顔の素敵な女性で、お嬢さんのお話をいつも嬉しそうにされていたのが印象に残っている。内服で血圧はとても良好にコントロールされていた。ほかには特段の持病はなく、基礎疾患があるといえばコロナ感染症に関しては基礎疾患に当たるのだろうが、一見して大変お元気に生活されていた。

 ところが、7月末の土曜日に37度5分の発熱で来院。採血検査で白血球の低下と単球の増加を認めこの時点でコロナが疑われる状況であったが、週末でありPCRのできる病院がすぐに見つからず、解熱剤を飲んで月曜日に体調を診て連絡するように指示した。

 翌週水曜日に患者さんから着電。お嬢さんがその後発熱し、PCRをしたところコロナ陽性であったためご本人もPCRを施行したらコロナ陽性であった。その日の朝あたりから呼吸が苦しくなってきたのでどうしたらよいか、と。発熱39度。酸素飽和度95%。咳が出ており、肺炎の発症が疑われた。

■祈る思いで一晩過ごす

 保健所からは現時点では入院の適応はないこと、保健所から連絡するまで自宅待機の指示があったということだった。緊急性はないものの肺炎の発症が疑われ、ステロイドの吸入をオンライン診療で処方し、酸素飽和度を継続して測定し93%を下回るようならすぐに報告するようにと指示。

 翌木曜日、酸素飽和度が89%になってしまった、少し歩いても息が切れる、食事が全くとれないという報告を受け、朝9時にいくつかの病院に入院の依頼電話をした。しかしながら、すべての病院でコロナ陽性が確定している場合は、保健所からの指示でしか入院を受け付けないと言われてしまう。すぐに保健所に状況を報告。入院の適応があること、急を要することを伝える。わかりました、入院の手配をしましょう、と。その後、保健所に再三確認したが「入院先を探しています」の一言。しかも、入院が決まってもクリニックには連絡しませんと通告される。

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酸素飽和度が下がるようなら…