体操の男子予選で鉄棒の演技を終えた内村航平選手(c)朝日新聞社
体操の男子予選で鉄棒の演技を終えた内村航平選手(c)朝日新聞社

 ロンドン五輪、リオ五輪と2大会連続で金メダルを獲得した体操の内村航平選手(32)が、鉄棒の予選でまさかの落下。大会から姿を消した。演技後、NHKのインタビューに対し「体操するのはもういいのかなと思っちゃたりしました」と語るなど、その去就にも注目が集まる。同じく2大会連続でメダルを獲得していた重量挙げの三宅宏実選手(35)は、記録なしで競技を終了。その後、引退を表明した。ベテラン選手たちは「引き際」をどう決断するのか。元体操メダリストの池谷幸雄氏に聞いた。

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「あー、落ちてしまったぁ」

 まさに全国の視聴者の気持を代弁するようなアナウンサーの声だった。体操男子、鉄棒の予選。内村選手は難度の高いブレトシュナイダーを決め、カッシーナ、コールマンと「離れ技」を繰り出したが、その後の「ひねり技」で落下してしまった。

 内村選手は、2012年のロンドン五輪、16年のリオ五輪で、2大会連続で個人総合金メダルを獲得したほどの実力者だ。東京五輪でもメダル獲得が期待されていた。

 失敗の背景には、怪我の影響が指摘されている。19年には両肩の怪我に苦しみ、全日本選手権で予選落ちという結果に終わった。その後、一人で6種目を行う個人総合ではなく、鉄棒に競技種目を絞り、満身創痍の中、東京五輪に照準を合わせてきた。

 ソウル五輪、バルセロナ五輪と2大会連続でメダルを獲得した元体操選手の池谷幸雄氏は「ベテランとはいえ、プレッシャーがあったのだろう」とした上で、こう語る。

「離れ技はとても安定していました。失敗したひねりは難しい技で、倒立がうまく決まらないと失敗しやすい。練習でも失敗しており、不安部分が出てしまったという感じです。私もバルセロナ五輪のとき鉄棒で張り切り過ぎて失敗をしたのですが、予選には『失敗すると終わり』という独特の緊張感があります。また、今回は鉄棒の一種目しかやらないという重圧もあったでしょう」

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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