いろいろ悪く言ってしまいましたが、普通に話せば、人のいいおじさんです。人柄は、きわめて温和で柔和で人の話をよく聞くタイプ。追いつめられた時に彼が激怒するといった話は聞いたことがありません。ただ、一度だけ、彼が怒っているのを見たことがあります。

 彼を怒らせた張本人は、私です。1年ほど前、私が小池都知事への告発を含んだ『築地と豊洲』という本を書いた件で、呼び出しをされた時でした。

――どのようなシチュエーションだったのか、詳しく教えていただけますか。

 副知事室に呼び出されて、お前の後任はこの人で決まっているといったように引導を渡されたのですが、私は多羅尾さんと小一時間押し問答をしました。辞めさせられる理由について、「お前は局長まで務めたのに常識をもっていない」という、意味不明なことを言われたので、私は食って掛かったのです。公的な業務で適してないと言われれば理解できるのですが、仕事ぶりとは一切関係なく、私人としての行動を取り上げていたため納得がいきませんでした。

 副知事にたてつくというのはなかなかないですし、怒鳴られても仕方ない場面です。多羅尾さんの温和な気質も手伝って、怒鳴られはしませんでしたが、初めていらだっていたのを見ました。口調も強くなりましたし、顔を赤らめていたと思います。

 多羅尾さんは同じ理由の一点張りで、私がいくら疑問を投げかけても、同じことの繰り返しで議論は何も発展しなかった。小池さんの意向がある以上は、多羅尾さんも判断を変えられないですし、かといって小池さんの意向であることを持ち出すわけにはいかないので、同じ答えを繰り返さざるを得ない。「小池さんが決めたんですか」と何度も聞いたのですが、「そうではなく、組織として決めたんだ」という言い方でしか答えてくれなかった。私が外に向かって何を言うかわからないので、小池さんを守らなければいけない立場としては、後付けで作った理由で押し通すしかないというつらさはあったと思います。つまり、小池さんへの忖度ですね。

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多羅尾氏の台頭は「物言えぬ雰囲気」の象徴