パンチなら骨を折っても相手が気を失っても称賛されるのに、絞め技でオトしたり骨折させたりすると批判されてしまう。同じルールの中でやっているのに、的外れな批判だと感じます。じゃあ、殴って失神させるのもルールで禁止にしたらどうですか(笑)。

 よくあることですが、骨が折れたかな、オチたかなと思って力を抜くと相手が殴り返してくる。僕らが生きているのは、素人の皆さんが思うような甘い世界ではないんです。だから僕は躊躇なく骨を折りますね。そのシーンが嫌なら格闘技を見るなよと思います。

 ――とはいえ、朝倉選手が試合前から「タップをしない」趣旨の発言をして、それを「有言実行」してしまったことで、失神する姿がテレビに流れてしまった。これは議論を呼んでいます。

 論議が起きてしまっていることを考えても、やっぱり僕は格闘技はサブカルであってほしいと思います。地上波で大衆に見せるものではなく、ペイパービュー(有料視聴)にして、見たい人だけが見ればいいんです。

 だって、東京ドームみたいなところで真ん中にリングを置いて、人が殴り合っているのを客が喜んでいる光景って、俯瞰して見たらどう考えてもおかしいですよね。人が傷つけられて倒れるのを喜んでるんだから。これを(テレビなどで)大衆に見せたら、特に一見さんはいろいろと言う人がでてきますよ。

――青木さんは格闘技はスポーツではないという考え方ですが、逆に、やり過ぎてしまうと格闘技がスポーツではなくなってしまうという意見もあります。

 そういう緩い人は僕の「客」ではありません(笑)。格闘技って、あくまで「技術」なんですよ。緻密な研究や理屈の上にすべてが成り立っているんです。それをみんな分かっていない。

「芸事」という言葉を僕は使いますが、これが分からない人とは一緒に格闘技というアートを作っていけません。

――ファンにも厳しいですね。

(格闘家でも)批判が怖くて言いたいことを言えない人が多い。でも、僕は本当のことを言い続けたい。本当のことを言うことが、僕の表現だと思っています。(構成=AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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