陰性証明をめぐっては、医療関係者からも疑問の声が挙がる。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、学校で検査を担うことになった場合について、次のように見解を示す。

「学校単位の人数のPCR検査は、原理的に言えばできなくもないのでしょうが、オペレーションの問題は生じます。何日以内に、誰が主導し、どこが費用を払うのかといった取り決めも必要です。(原案の軸になっている)1週間以内であればギリギリいけるかもしれませんが、感染予防の観点からは週に2回以上が理想とされています。2~3日以内なら、時間的制約からしても厳しいでしょう。子どもたちがワクチンを打っていれば話が変わってきますが、打てていないのが現状ですから」

 仮に、観戦に参加する児童・生徒全員に対して1週間以内の検査が実施できたとしても、陽性者が出た場合はどうするのか。

「千人単位で検査をすれば、無症状者は2、3人は出ると思います。その子だけ休ませるべきか、濃厚接触者やクラスメイト、どこまで休ませるかといった判断を学校側がするのは難しいことではないでしょうか」

 また、政府の「五輪ありき」のコロナ対策にも違和感を覚えるという。

「五輪でやるのであれば、修学旅行だって全員PCR検査をして実施すればいいじゃないかという意見も出るでしょう。また、これまで日本は世界的に見てもPCR検査に消極的でした。その中で五輪の観戦はPCR検査で解決しようとするのは、完全なダブルスタンダード、二枚舌です。五輪観戦で検査をするぐらいなら、十分に検査ができていない介護施設の検査体制を拡充するべきではないでしょうか」(上医師)

 前出の内田氏は疑問を呈する。

「検査は感染予防の観点からは必要なのだと思いますが、教育現場には相当な負担になると考えられる。そこまでして、五輪の観戦をすることに意味があるのでしょうか?OECDの2018年の調査(国際教員指導環境調査)では、日本の教員の1週間当たりの仕事時間の合計は、参加48カ国の中で最長です。このままだと皮肉にも、五輪は日本の教師の長時間労働を世界に証明する場になってしまいます」

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しわ寄せは現場に