「彼はプライドが高いので、お金が工面できないと口に出せなかったみたい。それで、黙ったまま…。結局、年末に経費精算をしたみたいで、まとめてお金を入れてくれたんですけど、払ったんだからいいじゃん、という態度でした。それで、この人とはちょっと金銭感覚が違うな、この先、大丈夫かな、と思い始めたんです」

 専業主婦として、経済的に依存しているのが怖くなった。それで、仕事探しを始めた。求人サイトで、貴子さんの前職と子育て経験を生かして働ける仕事を見つけた。トントン拍子で採用が決まった。子育て情報を発信する仕事で、午前9時から午後4時の時短勤務。ちょうど近所に保育園が新設されて空きがあり、子どもがタイミングよく入園できたのも幸いだった。

「彼には『仕事するよ』と伝えました。賛成も反対もなく『ああ、そうなんだ』って。仕事ではたまに出張があったのですが、そのときは快くサポートしてくれました」

 夫婦それぞれが仕事=自分の世界をもち、互いに寄りかかることなく生活する。格好いい、いまどきのスタイルだ。これが心地いいという人も確かにいるだろう。しかし、貴子さんはさみしかった。例の出来事以来、貴子さんの心の中には「離婚」の2文字がちらついていた。

「そんなとき、離婚カウンセラーという仕事があることを知りました。カウンセラーに相談するより、自分で資格を取り。セリフカウンセリングできるようになろうと思って勉強し、1年くらいかけて資格を取ったんです。学ぶうちに、安易な離婚をするべきではないと強く感じました。だから、いまの結婚生活に不満はあるけれども、離婚はしないという気持ちを私は固めていました」

 子どもが5歳になる少し前。尚樹さんが突然、「これからは家を拠点にして仕事をする」と言い出した。

「そのころは週に1~2回、帰って来るか来ないかみたいな生活になっていました。だから、その言葉を聞いたときは、素直にうれしかったんです。これでやっと私たち、ふつうの家族になれるのかな、って」

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「私じゃなくて、あなたが離婚を言うんだ…」