役者としての活動を続けつつ、障害の当事者として、講演会などで積極的に情報発信も行う柳さん自身も、例えば数人で会話をしたり、グループLINEでのやりとりは苦手だという。

「1人がある話をしていて、もう1人が別の話を始めると、頭の中がごちゃごちゃになって、いま何の話をしているのか、どういう順番で答えればいいのかが分からなくなっちゃうんです。さらに、一度その疑問が頭に浮かぶと、延々と答えを探し続けてしまう。『終わりがない感情』とでも言えばいいのか……。すごく疲れて苦しくなってくるんです」

 多くの情報から、必要な情報だけを選ぶことも、余裕があれば可能だが、疲れてくるとスムーズにできなくなる。

 例えば、エクセルで作られたイベントなどの進行表。すべてのスタッフの動きが示されている中から自分に関係する情報を拾うには、健康な人とは比較にならないほど慎重に読み込む必要が出てくるため、大きな負担を伴う。そのストレスに耐えられることもあるが、いつもやり切れるとは限らない。

 19年の秋に、柳さんのマネジメントをすることになった大石さん。最初から高次脳機能障害に対しての知識を持っていたわけではなかった。

 柳さんとの初めての仕事は、プロフィル写真の撮影。障害があること自体は知っており、スタジオに入ってきた柳さんの、男性にしてはゆっくりとした足取りを見て「普通とは違うのかな」とは感じたと言う。だがそんな柳さんは、撮影が始まった瞬間、「プロ」としてのスイッチが入った。

「身のこなしや表情の作り方など、こなれ方が全然違うんですね。とても高い経験値のある人で、できる仕事は一杯あるだろうと感じました。すぐに舞台のお仕事をいただいたので、今後のために関係者と柳さんの障害の情報を共有する必要があると考え、柳さんに時間をかけてヒアリングし書類を作りました。ただ、この時は身体機能の障害だけに焦点を当ててしまい、柳さんが抱えている『本当の問題』は理解できていませんでした」(大石さん)

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「もっと当事者の声に耳を傾けなければ」