中国人女性に説明を求めると、「こんな相場はあり得ない。アクシデントに近いので気にしないで欲しい。リスクヘッジであと500万円入金できないか?5000万円に増やして一度あなたに返す」と連絡が来た。

 不信感は募ったが、男性は「騙されているはずはない」と思い込んでいたという。500万を入金したが、その1週間後に125万円まで減っていた。

「女性の取引手法が信用できなくなっていました。『もうあなたはやらなくていい。私がやる』と伝えて。この時点で貯金の2000万円を全額失っている。何とかして取り返したいという思いがあり、消費者金融から1150万円を借りて入金しました。相場の流れを読みながら、コツコツ利益を増やしていきました」

 中国人女性とは連絡をほとんど取らなかくなったという。たまにLINEで送られてくる文章も「元気にしてる?」、「会いたいね」など投資に無関係の他愛もない会話ばかり。

 半年後、2000万円にまで増やしたため出金することにした。消費者金融からも借り入れていたため、早急に返したかった。投資に神経を使う生活は精神的に消耗するため、2000万円を全額出金してやめようと思った。

 中国人女性に出金のやり方を要望したところ、「せっかく2000万円まで増やしたのにもったいない。今は出金するべきではない」と断れた。何度も連絡したが、その後は返信が来なくなる事態に。そして、数日後に中国人女性の友人と名乗る男性から連絡が来た。想像もしなかった結末となった。

「知らない名前の男性からLINEが来て、『彼女はコロナで亡くなった。残念ながら、あたなたのお金は出金できない事態になった』と。ようやく目が覚めました。あっ、騙されていたんだと…。警察に被害届を出して、振り込んだ口座を凍結しましたが、その口座の金はすべて抜かれていたために『返金は厳しい』と伝えられました」

 中国人女性のLINEに文章を送ったが既読にならないため、確認すると連絡がブロックされていた。勤務先の証券会社のホームページもネット上で再度確認すると、会社は存在していなかった。会社、暗号資産の売買のチャートもすべて偽造で、男性が提示した免許証を使って男性名義の口座が作られ、振り込んだ金をすべてだまし取られていた。

「自分と同じような被害に遭ってほしくないので、今回取材に応じました。この出来事でお金を失っただけでなく、心も病みました。人と会うことが怖くなり、仕事にも支障をきたしています。マッチングアプリでのもうけ話は絶対に信じないで欲しい」。

 男性は投資詐欺に遭うなどまったく考えていなかった。振り込み詐欺のニュースが連日伝えられても他人事の事件として見ていたという。だからこそ、被害に遭った今回の経緯を赤裸々に綴った言葉には重みがある。私たちも投資詐欺を対岸の火事として捉えない方が良いだろう。

(牧忠則)