「仲卸業者が1、2回ほどクリオネを持っていくと、次はもういらないと言われます。食べ物と違って、お客さんにとっては良いと思ったらすぐにまた買うというものではないですから」(都内近郊の卸会社)

 北海道の仕入れ元にも話を聞くことができた。クリオネを出荷して20年になる、網走市の水産卸業者の男性はこう話す。

「毎年1月から3月、港が流氷に覆われて船が出せなくなると、漁師や卸の人は暇になります。そんな時期、たまたま氷の塊と塊の隙間を覗いたら、クリオネが泳いでいるのを発見しましてね。ずいぶんと可愛いんだなと思って」

 はじめは自らの観賞用として瓶や水槽の中で飼っていたが、見聞きした人から「余分に獲れたら分けてほしい」と言われるようになった。それから都市部にも少しずつ出荷するようになったという。

 今年は例年に比べて「多く獲れた」というが、獲るのは簡単ではないようだ。

「クリオネを獲る時には“天かすすくい″を使うんですけど、持ち手が短いから、長い棒にくくりつけて海に差し込んですくいとります。ただ、小さくて見つけ出すのも大変で、じっと目を凝らして探さないと見つからない。日中でも氷点下10度の寒さのなか、服を着込んで鼻水を垂らしながらやるから、簡単に『欲しい』と言われてもなかなか獲れないんですよ。朝から日が落ちるまで探しても1匹も獲れない日がある。それでも今年はいつもより獲れたし、注文も例年以上に多かったです」(前出の男性)

 スーパーで簡単に手に入るようになったクリオネだが、どうやって家で飼育するのか。クリオネを研究し、冷蔵庫で1年以上飼育した経験があるという、進化生物学研究所研究員・東京農業大学非常勤講師の蝦名元(えびな・つかさ)さんに聞いた。

「クリオネは水温が低い北の海に生息していますが、冬になると、海流によって流氷とともに流されてくる。日本では、北海道北東部に位置するオホーツク海沿岸に漂着します。温かくなって流氷が解けると、そのままクリオネも死んでしまいます。そのため、家では5度以下の冷蔵庫の中で飼うのが絶対条件となります」

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クリオネ、世話の仕方は