「素晴らしい中継、実況が名勝負をより際立たせるのは歴史が証明している。過剰な演出は敬遠されるが、人間味溢れるやり取りは視聴者にストレートに伝わる。オリンピックや高校野球などが胸を打つのはそのため。そこは映像だからできる部分でもある」(スポーツ新聞高校野球担当)

 選手のパフォーマンスが最も重要なのは当然だが、スポーツはエンターテインメントである以上は避けられない現実もある。しかし今回のマスターズ同様、過去のスポーツ中継には素晴らしい実況が多々あった。

「東京千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします」(NHK・山本浩アナ/85年サッカーW杯予選、日本代表vs韓国代表)

「高いぞ、立て、立て、立て、立ってくれ、立った」(NHK・工藤三郎アナ/98年長野五輪、スキージャンプ・個人ラージヒル)

「恐ろしい、両手を挙げた、甲子園は清原のためにあるのか」(朝日放送・植草貞夫アナ/85年夏の甲子園決勝、PL学園vs宇部商)

「2人目もホームイン、つないだ、つないだ、日本文理の夏はまだ終わらない」(朝日放送・小縣裕介アナ/09年夏の甲子園決勝、中京大中京vs日本文理)

 心を鷲掴みにする、素晴らしい中継、実況も数多く存在する。もちろん野球でも忘れられないものがあった。上記以外にも探せばキリがない。しかし近年のプロ野球中継に関しては、減っている感じが否めない。

「副音声の場内音声のみで見ているファンも多い。英語放送でやった方が在日外国人も喜ぶという声もある。こういう意見が溢れていることを、各テレビ関係者はどう感じているか。情報が氾濫している時代だからこそ、言葉の重要性や空気感を考えて欲しい」(大手広告代理店関係者)

 日本語の良さは、同じ事象でも話し手の感性、技量に応じて、多くの例え方ができること。視聴者の心を動かし、歴史に残る名実況、名台詞が再び生まれることを多くの野球ファン、関係者は望んでいる。