ちなみに、「口内炎を歯科で診てもらう」と聞くと意外かもしれませんが、歯学部では口内炎について詳しく学びます。口腔がんも含めた粘膜の異常を診断する方法や口内炎の治療法についても熟知しており、間違いなく、われわれが専門にしている病気の一つです。ですから、思い当たることがあったら、気軽に受診してください。

 なお、口内炎の予防策としてみなさんにできることもあります。それは毎日のていねいな歯みがき、デンタルフロスなどできれいな口を保つこと。もう一つは口の中の粘膜を丈夫にすることです。口の中の粘膜には腸と同じように、さまざまな病原菌をブロックするバリア機能が備わっています。

 粘膜を丈夫に保つコツとしては、唾液を十分にいきわたらせること。唾液にはからだに必要なさまざまな酵素が含まれるほか、殺菌作用や自浄作用もあり、粘膜を保護してくれます。唾液の分泌を促すために、口呼吸に気をつけることや、意識して口を動かすこともいいでしょう。なお、マスクで口の中が乾燥しやすいという人は、こまめに水分などをとることをおすすめします。

 また、ロイテリ菌など乳酸菌の中には口の中の善玉菌を活発にするものもあります。口の環境を良好に保つために、これらを上手に食事に取り入れるのもいいと思います。

 なお、入れ歯の人には歯ぐきのマッサージをおすすめしています。歯がなくなると歯ぐきが次第に退縮し、同時に粘膜も薄く、弱くなってきます。

 入れ歯を取った後、歯ぐきの部分をやわらかい歯ブラシでこすると歯ぐきの粘膜が硬く、丈夫になることがわかっています。これは専門的には「擦過(さっか)刺激」と呼ばれるものです。そして歯ぐきが丈夫になると入れ歯が安定し、外れにくくなります。

 なお、これはあまりすすめられることではありませんが、歯ぐきが丈夫になると歯の代わりとなって、入れ歯なしでもご飯が食べられるようになることもあるのです。

 記録的な長寿で話題となった双子の姉妹、きんさん、ぎんさんは、歯がほとんどない状態でも入れ歯なしでご飯を食べていました。おふたりはからだだけでなく、口や歯ぐきの粘膜も丈夫だったのでしょう。

著者プロフィールを見る
若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

若林健史の記事一覧はこちら