■職員の言葉で気付いた生命保険営業の本質

 生命保険という「形のない商品」の良さを伝え、納得して契約してもらうためには、顧客と営業職員との間に信頼関係があることが前提となる。

「営業職員がどうやってお客様と出会い、どんな話をして、どうやって心を通わせているのか。それこそが営業の本質なのだと、この言葉を聞いて改めて気が付きました。生命保険の営業は、奥が深いのです」

 アクチュアリーの職を離れてからも、仕事で数学の発想が生きる場面は多かった。仮説を置き、定理に沿って論理展開しながら答えを出すという一連のプロセスは、ビジネスの経営プランを立てる「ストーリー作り」にも当てはまるという。

「数学的思考は、短期で答えを出すビジネスよりも、長期レンジで答えを出すビジネスに合っていると思います。今はデジタル社会ですし、数学科を始めとする理系出身者は、ますます需要が高まっている。いよいよ本番だ!というところでしょう」

 入社から40年の間には、さまざまな困難もあった。2005年の保険金不払いによる不祥事の際は、企画部長として前社長を支え、再生計画の陣頭指揮を執った。

「道を誤れば、会社は倒れる。お客様にご迷惑をかけるに至った原因を一つひとつ洗い出し、すべて作り替えてきました。だから今は、どんなことがあってもこの会社は大丈夫だという自信があります」と根岸さん。19年度はグループ最高益を3期連続で更新し、顧客満足度も過去最高値を記録。コロナ禍への対応を迫られた20年は、非対面営業や顧客へのアフターフォローに注力する特別計画を即実行に移した。

「大学時代は文系理系問わず多くの人と出会い、刺激を受けた。僕にとって早稲田は、挑戦する気持ちを育む弾力的な空間でした」

 根岸さんは今も、挑戦と革新の日々を歩み続けている。

Profile
ねぎし・あきお 1981年早稲田大学理工学部数学科卒。同年明治生命(現明治安田生命)入社。87年日本アクチュアリー会正会員に認定。上尾西営業所長、滋賀支社長、企画部長、営業企画部長、執行役、常務執行役などを経て2013年から現職。20年に2回目となる生命保険協会会長就任。

(文/木下昌子)