もっとも、彼がR‐1で優勝したときの言葉遊びネタなども、なかなかのドヤ顔芸だった。芸風もプライベートもクセの強いところが、存分に生かされているといえる。

 なお、千之助の兄・万太郎を演じるのは板尾創路。こちらはまだ劇中で笑わせる芝居をせずに済んでいるが、気になるのは星田も板尾も吉本の芸人だということだ。

 なぜなら「おちょやん」は松竹の笑いを描く作品。吉本興業の創業者・吉本せいをヒロインのモデルにしていた17年度後期の朝ドラ「わろてんか」とは違うのである。

「わろてんか」の場合、藤井隆が漫才作家を演じたり、内場勝則や兵動大樹が興行関係者を演じるなど、吉本芸人がメインどころで活躍した。「おちょやん」でも鶴亀撮影所の守衛の役で、松竹新喜劇の代表を務める三代目渋谷天外が味のある芝居を見せたが、現時点での芸人役のツートップが吉本系というのは、松竹にとってちょっと歯がゆいのではないか。

 ちなみに、それぞれの看板舞台、吉本新喜劇と松竹新喜劇を比べてみると、前者はドタバタ重視、後者は人情重視という特徴がある。子どもの頃「よしもと新喜劇」(TBS系)を毎週欠かさず見ていた筆者は、1975年に「藤山寛美3600秒」(テレビ朝日系)が始まった際、その違いに驚かされた。

 正直なところ、子どもにとっては吉本のほうが面白かったが、大人になるにつれ、松竹のほうも面白く感じるようになるのだろうなと思ったものだ。

 しかし、松竹新喜劇は80年代以降、衰退していく。一方、吉本新喜劇にも危機はあったが、吉本の笑いが全国区になったこともあってテコ入れが成功。そのコントラストが象徴するように、吉本と松竹の力関係自体、かつてより差がついてしまった印象がある。「おちょやん」の芸人キャスティングはそのあたりも実感させるのだ。

 とはいえ、後半には藤山寛美がモデルの松島寛治役で前田旺志郎(まえだまえだの弟)が登場、また、曾我廼家五郎八がモデルともいわれる須賀廼家万歳役を寛美の孫である藤山扇治郎が演じるなど、松竹系の役者の巻き返しも期待できる。

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